
心リハ指導士試験で出題頻度が高い「虚血性心疾患」について、疾患の概要や、心臓リハビリテーションの効果などを解説します! 例題付きなのでよかったら最後までご覧ください!
はじめに
虚血性心疾患は、心臓リハビリテーションの対象疾患の中で最も患者数が多く、試験でも本丸と言える重要分野です。今回は、病態生理から最新の治療ガイドライン、そしてリハビリの効果までを整理しました。
主に参考にした図書は、「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」と、「-指導士認定試験準拠- 心臓リハビリテーション必携 増補改訂版」です。
また、他の参考書に手を出すよりも、この「必携」を徹底的に読み込むことが合格への近道です。
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虚血性心疾患とは
虚血性心疾患とは、冠動脈に器質的な狭窄や閉塞、攣縮によって心筋が壊死したり虚血に至る疾患の総称です。
| 虚血性心疾患の分類 |
|---|
| 1. 急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS) ①急性心筋梗塞(AMI) ②不安定狭心症(UAP) ③心臓突然死 |
| 2. 陳旧性心筋梗塞(old myocardial infarction:OMI) |
| 3. 梗塞後狭心症(post infarct angina:PIA) |
| 4. 労作性狭心症(effort angina pectoris:EAP) |
| 5. 無症候性心筋虚血(silent myocardial ischemia:SMI) |
| 6.冠攣縮性狭心症(coronary spastic angina:CSA) |
ACSの分類(STEMI / NSTEMI)
ACSは、初期対応を決めるために心電図変化から以下のように分類されます。
- STEMI(ST上昇型心筋梗塞):心電図で持続的なST上昇、または新規の左脚ブロックを認めるもの。緊急カテーテル治療(PCI)の絶対適応です。
- NSTE-ACS(非ST上昇型急性冠症候群):ST上昇を認めないもの。ここからさらに心筋トロポニン(T/I)の上昇があればNSTEMI(非ST上昇型心筋梗塞)、上昇がなければUAPと診断されます。
虚血性心疾患の治療目標
治療の究極的な目標は以下の2点です。
- 胸痛発作の改善に伴うQOLの改善
- 心血管事故の発生予防に伴う長期生命予後の改善
長期予後を改善するためには、「冠動脈新規病変の出現抑制」と「不安定プラークの安定化(マネジメント)」が重要です。
虚血性心疾患の治療
治療方法は、薬物療法と非薬物療法(血行再建術、リハビリ)に分類されます。
血行再建術(PCI vs CABG)
- PCI(経皮的冠動脈形成術): カテーテルによる治療
- CABG(冠動脈バイパス術): 外科手術
PCIとCABGの選択については、日本心臓リハビリテーション学会は以下のように示しています。
「術者、施設の技量に照らし合わせて、解剖学的にPCIの成功率が低く、合併症の発生率が高い病変では、虚血範囲が広ければ、薬物療法で症状が改善しない患者にCABGが有効である。」
「-指導士資格認定試験準拠- 心臓リハビリテーション必携」増補改訂版より引用
一般的に、左主幹部病変や多枝病変、糖尿病合併例などはCABGが推奨される傾向にあります。
非薬物療法には、他にも食事療法、運動療法、禁煙のような患者教育指導を含めた心臓リハビリテーション(心リハ)があること知られています。
狭心症
狭心症は、心筋が一過性に虚血に陥るため胸痛や前胸部圧迫感などの自覚症状が生じる疾患のことを言います。
| 狭心症の分類 |
|---|
| 1. 安定労作性狭心症(EAP) 運動時など一定の労作で胸痛が出現し、安静やニトログリセリンで改善するもの。 |
| 2. 不安定狭心症(Unstable Angina Pectoris:UAP) 安静時にも胸痛がある、または発作の頻度・強度が増しているもの (ACSに含まれ、心筋梗塞への移行リスクが高い) |
| 3. 無症候性心筋虚血(Silent Myocardial Ischemia:SMI) |
| 4. 冠攣縮性狭心症(Vasospastic Angina:VSP) 冠動脈の痙攣(スパズム)により、主に夜間~早朝の安静時に発作が起こるもの。 |
心筋梗塞
心筋梗塞は、冠動脈が閉塞して心筋が壊死に陥るため胸痛や前胸部圧迫感などの自覚症状が生じる疾患のことを言います。
なお心筋梗塞の詳細は過去のブログもご覧ください。
また一部抜粋して解説しますので要点だけ見たい方は以下をご参照ください。
急性期の検査の流れ
AMIは、臨床的所見と心電図変化、血液検査の異常値を認めた場合に診断します。

血液検査では、CK、CK-MBなどの心筋逸脱酵素に加え、より感度・特異度の高い「心筋トロポニン」の上昇が診断の決め手となります。
治療概要と合併症への注意
治療概要

初期治療(MONA):
- Morphine(モルヒネなどの鎮痛薬)
- Oxygen(酸素吸入:低酸素血症がある場合)
- Nitrates(硝酸薬:ニトログリセリン)
- Aspirin(アスピリン:抗血小板薬)
再灌流療法:
- PCI(経皮的冠動脈インターベンション): バルーン拡張(percutaneous old balloon angioplasty:POBA)や冠動脈ステント留置術(DES)を行います。来院後90分以内(発症12時間以内)の再灌流が推奨されます。
- 血栓溶解療法(t-PA静脈投与): PCIができない施設や搬送に時間がかかる場合に行われます。
よくみられる合併症と対象法

これら合併症は心筋壊死の程度や部位によってみられます。特に機械的合併症は発症後2~3日以内に生じやすいため、バイタルサインや自覚症状を観察しながらこれら合併症に注意して心臓リハビリを行っていきます。
虚血性心疾患の心リハ
AMIの心リハ
AMIの心リハの時期別区分はリスク管理や治療内容によって4つの病期に分類されます。

特に、急性期では約12~24時間以内の絶対安静と臥床状態を経て、合併症の予防、早期発見を行いつつ、deconditioningを起こさないことが重要であるとされています。
前期回復期では、病棟内歩行から退院までの時期であり、左室機能や心不全の有無、心筋虚血の有無、予後リスクの評価、運動耐容能の評価をもとに運動療法や禁煙指導・服薬管理・食事療法などの患者教育・生活指導を行い、社会復帰・復職に向けたプロセスの設定やプログラムの作成などを行います。そのためこの段階で心肺運動負荷試験を行うことで詳細な生活指導が可能となるとされています。
具体的なプログラム

CPXを実施している場合は、AT(嫌気性代謝閾値)の心拍数や、ATの1分前のワット数を基準に負荷量を調整します。

ウエイトマシンやダンベルを使用できない高齢者の場合は、ゴムチューブを使用することで比較的安全に行うことができます。頻度は毎日行わず、日を空けて行うことが望ましいとされています。
狭心症・PCI後に対するリハビリ
狭心症・PCI後の運動療法に関して、Hambrechtらの研究(COURAGE試験など)から、「PCI単独よりも、PCI+継続的な運動療法の方が予後改善効果が優れている」ことや、再入院予防効果があることが示されており、非常に有効性が高いです。
具体的なプログラム例
有酸素運動の具体的なプログラムを紹介しましたが、レジスタンストレーニングも同様の運動強度を指標に実施していきます。

日本心臓リハビリテーション学会によると、低心機能、心不全症状、低運動閾値、高度残存虚血などを有する例では、監視下の運動プログラム実施が望ましいとされています。
虚血性心疾患のリハビリの効果
冠動脈硬化・冠循環
- 冠動脈硬化の退縮
- 冠側副血行路の形成
- 冠動脈内皮機能障害の改善
- 冠微小循環の改善
- 血小板機能や血液凝固の抑制
冠危険因子
- 喫煙率の低下
- 脂質・血糖・血圧コントロールの改善
- 体重減少
自律神経機能
- 交感神経機能の抑制
- 副交感神経機能の亢進
例題
問題①
虚血性心疾患の治療において誤っているものを2つ選びなさい。
- 長期予後改善として、冠動脈新規病変出現の抑制、不安定プラークマネジメントが重要である
- 狭心症に対して継続的な運動療法よりPCIの方が予後改善効果は高い。
- 再狭窄を繰り返すものに対してはPCIを施行する。
- 一般的治療として、静脈路の確保、酸素投与、ニトログリセリンの舌下、鎮痛剤投与などがある。
- 心電図上、NSTEMIと不安定狭心症の鑑別は困難なためトロポニンT上昇の有無で鑑別する。
●解答
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- b, c.
問題②
虚血性心疾患への心リハ効果について誤っているものを選びなさい。
- 血小板凝集能や血液凝固能の促進がある。
- 主に冠動脈硬化・冠循環、冠危険因子、自律神経機能に及ぼす効果の3つがある。
- 減量に関する効果はないとされている。
- 心臓交感神経機能の低下や心臓副交感神経機能の亢進がある。
- 冠動脈内皮機能障害の改善や、冠微小循環の改善が得られる。
●解答
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- c.
問題③
心筋梗塞の合併症とその対応について誤っているものを選びなさい。
- 持続性心室頻拍-アミオダロン静脈投与
- 心室中隔穿孔-パッチ閉鎖術
- 完全房室ブロック-永続ペーシング
- 右室梗塞-十分な捕液と強心薬投与
- 乳頭筋断裂-僧房弁形成術
●解答
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- c.
問題④
心筋梗塞の治療について正しいものを2つ選びなさい。
- 一般的治療として酸素投与、静脈路の確保、ニトログリセリンの舌下投与、塩酸モルヒネなどの鎮痛薬投与、アスピリンの咀嚼服用がある。
- 発症90時間以内のSTEMIでは、PCIが適応とされている。
- 来院後120分以内に冠血流を再開することが望ましいとされる。
- PCIが速やかに行えない場合は、t-PA静脈投与による血栓溶解療法を行うことがある。
- STEMIの心電図では持続的ST低下と新規左脚ブロックを示すものが含まれる。
●解答
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- a, d.
さいごに
ここまでご覧いただきありがとうございます。
今回は、心リハ指導士の試験対策として虚血性心疾患の病態から診断方法、そして心リハにおける運動処方まで解説しました。 臨床における治療の流れをつかみ、エビデンスに基づいた心リハの効果を理解すれば、合格点に一歩近づくと思います。
今日の学びが明日の臨床の一助になれば幸いです。
参考文献
- 日本心臓リハビリテーション学会(2022).「-指導士資格認定試験準拠- 心臓リハビリテーション必携」増補改訂版. pp76-91, 244-246, 267-273.
- 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会(2021).「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」.https://www.jacr.jp/cms/wp-content/uploads/2015/04/JCS2021_Makita2.pdf.



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