
なんか最近、心機能はそこまで落ちてないのに、すごい息切れをする患者さんがいるんだよね…。原因がわからなくて、どうやってリハビリを進めたらいいか悩んでるんだよ~。

もしかしたらそれは、「Ergoreflex(エルゴリフレックス)」による過剰換気かもしれないね。実は、「息切れの原因は心臓ではなく、筋肉にある」というケースが多いんだ。

えっ、筋肉!?初めて聞いた!そのメカニズムとか、リハビリでの改善方法を詳しく教えてほしい!

よしわかった!なら今回は、Ergoreflexによる過剰換気のメカニズムから、心リハの効果・意義、そしてCPXデータの読み解き方について解説するね!
はじめに
心リハの現場では、「心臓の動き(ポンプ機能)は悪くないのに、すぐに息が上がって動けなくなる」という患者さんによく遭遇します。その正体は、心臓ではなく「骨格筋からの異常な反射(Ergoreflex)」かもしれません。
今回は、この厄介な反射のメカニズムと、それを断ち切るためのリハビリ戦略について解説します。
Ergoreflex(エルゴリフレックス)とは?
一言で言うと、「筋肉の状態を脳に伝えるセンサーが、過敏になりすぎている状態」です。 本来は運動に合わせて呼吸や心拍を調整する正常な反射ですが、心不全患者さんではこれが暴走してしまいます。
| 骨格筋にある2つのセンサー |
|---|
| ・Mechanoreflex(機械受容器反射): 筋肉の「動き(収縮・伸展)」を感知。 |
| ・Metaboreflex(代謝受容器反射): 筋肉の「疲れ(乳酸などの代謝産物)」を感知。 |
心不全では、特に後者の「代謝センサー(Metaboreflex)」が過敏になり、少し動いただけで「酸素が足りない!もっと呼吸しろ!」と脳へ過剰な指令を送ってしまいます。
魔の悪循環「Muscle Hypothesis(筋肉仮説)」
なぜセンサーが過敏になるのでしょうか? そのメカニズムは以下の「負のスパイラル」で説明されます。

| 悪循環のステップ |
|---|
| 1.心不全(心拍出量低下): 筋肉への血流が減る。 |
| 2.骨格筋の劣化(ミオパチー): 持久力のある筋肉(遅筋)が減り、疲れやすい筋肉(速筋)に変わる。 |
| 3.代謝産物の早期蓄積: 軽い運動ですぐに乳酸などが溜まる。 |
| 4.Ergoreflexの暴走: 脳へ「緊急事態!」と過剰なシグナルを送る。 |
| 5.過剰な反応: 過換気: 必要以上にハアハアする(息切れ)。 血管収縮: 交感神経が興奮し、末梢血管が縮まる。 |
| 6.さらなる血流低下:血管が縮まるので、余計に筋肉へ血がいかなくなる(1に戻る)。 |
この悪循環こそが、「動けば動くほど息が苦しくなる」原因です。
CPXデータで見るErgoreflex
この反射が起きているかどうかは、CPX(心肺運動負荷試験)のデータで推測できます。

💡 Ergoreflexを疑う3つのサイン
- VE vs VCO₂ slope の増加: 二酸化炭素の排出量に対して、換気量(VE)が異常に多い(=息切れが強い)。
- Peak VO₂ の低下: 筋肉への酸素供給が制限され、早期に疲労する。
- 運動早期からの過換気: 運動開始直後から急激に換気が増える。
心リハの意義と「脱感作」
では、どうすれば治るのでしょうか? 答えは、「適切な運動で、筋肉を教育し直す」ことです。
トレーニングを継続して筋肉の質(ミトコンドリア機能)を改善させると、代謝産物が溜まりにくくなります。 すると、センサーの過敏さが落ち着き、過剰な指令を出さなくなります。これを「脱感作(Desensitization)」と呼びます。
| 運動療法の効果 |
|---|
| ・交感神経活動の抑制 |
| ・換気応答の適正化(VE vs VCO2 slopeの改善=息切れの軽減) |
| ・自覚的運動強度(Borg Scale)の改善 |
具体的な運動処方例
「息が切れるから安静」は逆効果です。「下肢の大きな筋肉」をターゲットに、低負荷から少しずつセンサーを慣らしていきましょう。
心血管疾患におけるリハビリテーションに関する ガイドラインを参考にしたメニューを以下に示しますのでご参考にしてください。
| 項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 有酸素運動 | ・頻度:週3~5回 ・強度:ATレベル(Borg 11-13) ・時間:20~60分 |
| レジスタンス (筋トレ) | ・頻度:週2~3回 ・強度:低~中負荷(1RMの30-40%) ・回数:10~15回 × 1~3セット ・部位:大腿四頭筋などを重点的に |
さいごに

ここまでご覧いただきありがとうございます。
今回は、Ergoreflexの生理学的機序から心リハの意義、そしてCPXにおける解釈について解説しました。
「息切れ=心機能低下」と決めつけてしまうと、リハビリの手詰まりになります。しかし、「息切れ=筋肉のセンサー異常(Ergoreflex)」という視点を持つと、「じゃあ筋肉を鍛えてセンサーを鎮めよう!」という前向きな戦略が立てられます。
今回の内容をまとめた表を作成しましたので、ぜひ参考にしてください。
| 項目 | 心不全患者の特徴 |
|---|---|
| 受容器感度 | 過敏 (Overactive) |
| 主な原因 | 骨格筋の質的変化(ミオパチー)、代謝産物の早期蓄積 |
| 生理的反応 | 過剰な換気、交感神経緊張、末梢血管収縮 |
| CPX所見 | VE vs VCO2 slope 高値、Peak VO2 低値 |
| 治療戦略 | 運動療法による骨格筋の再教育(脱感作) |
ぜひ、CPXデータ(VE vs VCO2 slope)を確認し、患者さんの筋肉に目を向けたアプローチを実践してみてください!
さらに詳しく学びたい方へ
概要から適応・実施プロトコールや、ATの決定方法などの実践的な内容は、以下の記事で深掘りして解説しています。ぜひ合わせてご覧ください!
▼CPXの概要・禁忌、実施プロトコールなどの入門はこちら
▼AT(嫌気性代謝閾値)の詳しい決定方法はこちら
▼CPX各指標(9パネル)の解釈・読み方はこちら
参考文献
- Aimo A, et al. The ergoreflex: how the skeletal muscle modulates ventilation and cardiovascular function in health and disease. Eur J Heart Fail. 2021 Sep;23(9):1458-1467.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34268843/
- Sze S, Pan D, et al. Overstimulation of the ergoreflex-A possible mechanism to explain symptoms in long COVID. Front Cardiovasc Med. 2022 Jul 15;9:940832.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35911550/
- Ponikowski PP, et al. Muscle ergoreceptor overactivity reflects deterioration in clinical status and cardiorespiratory reflex control in chronic heart failure. Circulation. 2001 Nov 6;104(19):2324-30.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11696473/
- 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会(2021).「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」.https://www.jacr.jp/cms/wp-content/uploads/2015/04/JCS2021_Makita2.pdf.





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