
今回は「心不全の患者さんがなぜ息切れするのか?」というメカニズムについて、心リハ指導士の視点で網羅的に解説していきます。SpO2は下がっていないのに息苦しい…そんな疑問を解決しましょう!
はじめに
心不全における呼吸困難感(息切れ)は、労作時の過度な換気増大となって現れる、最も一般的かつ患者さんを苦しめる症状です。
この症状の根底には、単に「心臓が悪い」だけでなく、肺や神経、筋肉などが絡み合った複雑な病態生理学的メカニズムが存在します。今回は、心不全の呼吸困難感を引き起こす「3つの主要因」とその機序について解説します。
心不全の呼吸困難感の概要
心不全による呼吸困難感は、例えるなら以下のような状態です。
「詰まったスポンジ(肺)を、効率の悪いポンプ(心臓)で循環させているために、無理に速く呼吸しなければならない状態」

- ポンプ機能低下: 肺に水が溜まる(うっ血)。
- 肺が硬くなる: スポンジが水を含んで膨らまなくなる(コンプライアンス低下)。
- 浅速呼吸: 酸素を取り込みCO2を吐き出すために、浅く速い呼吸を強いられる。
これに加え、運動時には筋肉が酸欠になりやすく(代謝性アシドーシス)、脳への呼吸指令(呼吸ドライブ)が加速することで、強い息苦しさを感じます。
要因は大きく以下の3つに分類されます。
- 心肺・血行動態的要因
- 換気異常と呼吸パターン
- 神経・代謝的要因
それぞれ詳しく見ていきましょう。
心肺・血行動態的要因

肺うっ血とJ受容器の刺激
左房圧の上昇による「肺うっ血」は、労作時息切れの直接的な原因です。左室充満圧が増加し、肺毛細管楔入圧(PCWP)が上昇すると、肺の間質(肺胞の壁)に水分が貯留します。これにより肺が硬くなり(コンプライアンス低下)、迷走神経末端にある「J受容器(J-receptors:傍毛細管受容器)」が刺激されます。
このJ受容器が興奮すると、反射的に「もっと呼吸しろ!」という指令が脳に送られ、頻呼吸や強い呼吸困難感が誘発されます。
拡張障害とPCWP上昇
左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)でも、拡張障害(心臓が広がりにくい状態)があると、運動時に左室圧が急上昇し、PCWPが上昇します。
これがJ受容器を刺激し、息切れの原因となります。
換気異常と呼吸パターン
慢性期で状態が安定した心不全であっても、息切れが残る場合があります。これは「換気の効率」が悪くなっていることが要因です。

換気血流不均衡と死腔の増大
心不全患者さんの労作時換気量(VE)の増大は、「死腔(ガス交換に関与しない無駄な換気)」の増大を伴います。血流が十分に回らない肺胞が増えることで換気血流不均衡(V/Qミスマッチ)が生じ、二酸化炭素(CO2)を排出するために、健常者以上に大量の空気を出し入れしなければなりません。 これが、CPXデータにおけるVE vs VCO2 slopeの高値(換気効率の悪化)として現れ、息切れの主要因となります。
肺コンプライアンスと浅速呼吸
肺が硬くなる(コンプライアンス低下)と、一度に深く吸うことが難しくなります(一回換気量 VTの増加抑制)。そのため、必要な換気量を確保するために呼吸数(RR)を増やすという戦略をとります。これが「浅く速い呼吸(Rapid Shallow Breathing)」であり、解剖学的死腔の割合が増えてしまうため、さらに効率が悪化します。
気道抵抗の上昇
慢性的な肺静脈圧の上昇による肺血管の肥厚や、気管支の過反応により気道抵抗が上昇し、呼吸仕事量が増えることも一因です。
神経・代謝的要因

化学受容器の機能亢進
- 中枢化学受容器(延髄): CO2の上昇に過敏に反応します。
- 末梢化学受容器(頸動脈小体): 低酸素(Hypoxia)に過敏に反応します。
心不全ではこれらのセンサー感度が亢進しており、わずかな変化でも過剰に呼吸中枢を刺激し、呼吸困難感を増強させます。
代謝性アシドーシス
心不全患者は、骨格筋への血流不足により、軽い負荷でも嫌気性代謝(無酸素運動)が亢進します。 その結果、乳酸が過剰に産生され、代謝性アシドーシス(血液の酸性化)が発生します。これを中和(重炭酸緩衝)する過程で大量のCO2が発生し、それを排出するために換気が強制的に増大します。
骨格筋・呼吸筋の機能異常(Ergoreflex)
骨格筋の質の変化(ミオパチー)や代謝産物の蓄積を感知し、過剰な換気を引き起こす反射を「Ergoreflex(エルゴリフレックス)」と呼びます。 これらが総合的に作用し、運動耐容能低下と強い息切れを招いています。
※Ergoreflexの詳しいメカニズムについては、以下の記事で深掘りしています!
さいごに


最後までご覧いただきありがとうございます。
今回は、心不全の運動時の呼吸困難感のメカニズムについて解説しました。
心不全の呼吸困難感は、単に「酸素が足りない」だけでなく、J受容器の刺激、換気効率の悪化(死腔増大)、そして筋肉からの反射(Ergoreflex)など、多岐にわたる要因が複雑に関係しています。リハビリの現場では、SpO2だけでなく「呼吸数」や「呼吸パターン(浅く速くなっていないか)」を観察することが、患者さんの苦痛を理解する鍵になります。この病態生理を理解して、安全かつ効果的な心臓リハビリを提供していきましょう。
今日の学びが明日の臨床の一助になれば幸いです。
参考文献
- 牧田 茂 : 心不全の息切れの機序とそれに対するリハビリテーション, The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 54(12), 947-951, 2017.
- Isato FUKUSHI、Yasumasa OKADA : Mechanism of dyspnea sensation: A comprehensive review for better practice of pulmonary rehabilitation, ournal of Rehabilitation Neurosciences, 19(1), 22-32, 2019.



コメント