
今回は、心リハ指導士試験で出題されやすい「徐脈性不整脈」について、種類や運動中止基準などを解説します!
はじめに
徐脈性不整脈は、意識消失やめまい、心不全増悪などの症状を伴うリスクのある疾患です。「心臓リハビリを実施することで悪化してしまうのではないか?」と不安に思う方も多いかもしれません。
心リハ指導士試験においても出題頻度が高く、しっかりとした鑑別が必要になってくる分野です。 そこで今回は、徐脈性不整脈の波形の見分け方や、運動時の具体的な注意点について解説します。
主に参考にした図書は、「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」と、「-指導士認定試験準拠- 心臓リハビリテーション必携 増補改訂版」です。
また、他の参考書に手を出すよりも、この「必携」を徹底的に読み込むことが合格への近道です。
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心電図について
記録紙の基本設定と見方
心電図の記録紙は方眼紙になっており、「横軸=時間」、「縦軸=電位(電圧)」を表します。
標準的な設定
日本および世界的に標準とされる設定は以下の通りです。この設定が前提となって、正常値(PQ時間やQRS幅など)が定義されています。
方眼紙の目盛り(標準設定 25mm/sec の場合)
| 単位 | 目盛りの大きさ | 時間(横軸) | 電位(縦軸) | 臨床的意義 |
| 最小マス | 1 mm × 1 mm | 0.04 秒 | 0.1 mV | QRS幅などの判定 |
| 大マス | 5 mm × 5 mm | 0.20 秒 | 0.5 mV | HR計算やPQ時間の概算 |
HR(心拍数)の簡易計算
RR間隔の大マス(5mm)の数で割り算する方法が実用的です。
式:300 ÷ (RR間隔の大マスの数)
- 大マス1つ = 300 bpm
- 大マス2つ = 150 bpm
- 大マス3つ = 100 bpm
- 大マス4つ = 75 bpm
- 大マス5つ = 60 bpm
徐脈性不整脈の全体像
正常の心臓調律の条件から1つでも欠けた場合に「不整脈」とされます。
| 正常の心臓調律 |
|---|
| 1. 洞結節から発生する |
| 2. P波の頻度:成人安静時50~100/分 |
| 3. PP間隔:一定で、短時間内(5~10秒)に0.16秒以上の変動なし |
| 4. PとQRSは常に1:1で、PQ時間:0.12~0.21秒で心拍ごとの変動なし |
| 5. 心室内伝導が正常で、QRS時間:成人0.12秒以内 |
不整脈は臨床的に①徐脈性不整脈と②頻脈性不整脈に分けられます。今回解説するのは①徐脈性不整脈です。
徐脈性不整脈は、調律異常である「洞不全症候群」と、興奮伝導異常である「房室ブロック」からなります。
なぜ徐脈がリハビリで危険なのか?
安静時または運動時に心拍数が急激に低下すると、脳への血流が維持できず、意識消失やめまい、失神(アダムス・ストークス発作)、心不全増悪などを引き起こします。
リハビリ中に徐脈発作が起きると、転倒や転落などの二次傷害を生じるリスクがあるため、慎重に進める必要があります。
洞不全症候群(SSS)
洞不全症候群は、以下の3つのタイプに分類されます(Rubenstein分類)。
| Rubenstein(ルーベンシュタイン)分類 |
|---|
| I型:持続性洞性徐脈 |
| II型:洞停止・洞房ブロック |
| III型:徐脈頻脈症候群 |
心電図の特徴
心電図の特徴として、通常P波が欠落して、その後のQRS波も消失します。
洞房ブロック: P波が消えた間隔が、基本周期(PP間隔)の整数倍になる。

洞停止: P波が消えた間隔が、基本周期の整数倍にならない。

房室ブロック(AV Block)
第1度房室ブロック
PQ時間が延長する(成人では0.21秒以上)ことが特徴ですが、QRS波の欠落はありません。 通常、運動制限の必要はありません。
第2度房室ブロック(Wenckebach vs Mobitz II型)
P波の一部が心室に伝導せずにQRS波が欠落します。予後や対応が異なる2つのタイプに分かれます。
Wenckebach(ウェンケバッハ)型
PQ時間が次第に延長していき、最終的にQRS波が1回欠落する。その後リセットされて繰り返します。比較的良性で、生理的にも起こる可能性があります。
Mobitz(モビッツ)II型
PQ時間の延長などの予告なく、突然QRS波が欠落します。
房室伝導系の重篤な障害を示唆し、完全房室ブロックへ移行するリスクが高いため注意が必要です(ペースメーカー適応になりやすい)。

高度房室ブロック
2個以上のP波に対して1つのQRS波しか伝導しない(2:1、3:1など)場合を指します。この2:1房室ブロックとそれ以下の伝導比の房室ブロックを高度房室ブロックといいます。

第3度房室ブロック(完全房室ブロック)
心房の興奮が心室に全く伝導しない状態の房室ブロックを第3度房室ブロックといいます。P波(心房)とQRS波(心室)が、互いに無関係に独自のリズムで出現します(房室解離)。徐脈が著しく、失神のリスクが高いため、原則としてリハビリ禁忌(ペースメーカー適応)です。
心リハ指導士試験で問われる「リスク管理」
徐脈性不整脈のリスク管理で最も重要な判断基準は、「症候性(Symptomatic)」か「無症候性(Asymptomatic)」かです。
無症候性の場合
自覚症状がなく、ホルター心電図等で長い心停止(Pause)が見られない場合は、厳重な監視下(心電図モニター装着)での運動療法が可能です。 ただし、運動強度の設定には以下の「変時性不全」への配慮が不可欠です。
変時性不全(Chronotropic Incompetence: CI)への対応
SSSの患者では、運動負荷に対する心拍数の上昇反応が鈍化する「変時性不全(CI)」を合併していることが多く、これが運動耐容能低下の主因となります。
Karvonen法の不適応
心拍応答が悪いため、予備心拍数(HRR)を用いたKarvonen法などで目標心拍数を設定すると、過剰な負荷になるか、あるいは到達不可能な目標値になるリスクがあります。
自覚的運動強度(Borg指数)の活用
心拍数に依存しない指標として、Borg scale(11~13:楽である~ややきつい)を主要な指標とします。
AT(嫌気性代謝閾値)の活用
CPXが実施可能であれば、ATレベルのWork Rate(ワット数)を基準に処方するのが最も安全かつ正確です。
運動療法の中止基準
日本循環器学会(JCS)のガイドラインでは、「未治療の重篤な徐脈や頻脈」は積極的な運動療法の禁忌とされています。
アダムス・ストークス発作(失神、めまい、ふらつき)の既往がある、または運動により誘発される場合は、ペースメーカー植え込み等の治療が優先されます。
安静時HR50bpm以下の高度徐脈の場合、または運動中に有意な心拍数低下が見られる場合は非常に注意が必要ですので主治医と相談しながら慎重に進めます。
ペースメーカー植込み後のリハビリ
多くのSSS症例ではペースメーカー(PM)植え込みが行われます。
レートレスポンス(Rate Response: RR)機能
SSS患者(特にCI合併例)では、体動や分時換気量を感知してペーシングレートを上げるRR機能がONになっているか確認が必要です。 運動してもレートが上がらない場合、生活や運動に支障が生じるため、主治医と相談して設定調整(プログラミング)を行います。
上限レートの理解
運動中にPMの設定上限レート(Upper Tracking Rateなど)に達すると、それ以上心拍数が上がらなくなり(Wenckebach作動など)、急激に血圧低下や息切れが出現することがあります。上限値を知っておくことが重要です。
例題
問題①
心電図について当てはまるものを選びなさい。
- 記録紙の紙送り速度は通常25mm/秒である。
- 記録紙は縦が時間、横が電位を表している。
- 1マスの電位の幅は1mVに相当する。
- 通常、校正波(キャリブレーション)は5mmの高さで入る。
- アーチファクトは心臓由来の波も当てはまる。
●解答
クリックで開閉(詳細を表示)
- a.
問題②
心電図について正しいものを選びなさい。

- 心房細動
- 第1度房室ブロック
- 第2度房室ブロックWenckebach型
- 第2度房室ブロックMobitzⅡ型
- 完全房室ブロック
●解答
クリックで開閉(詳細を表示)
- e.
さいごに
ここまでご覧いただきありがとうございます。
徐脈性不整脈の概要から心臓リハビリにおける注意点や介入方法について解説しました。 徐脈はリスクが高い病態ですが、単に「運動禁止」とするのではなく、「症状があるか」「心拍応答(変時性不全)はあるか」を評価し、適切な負荷量(ワット数やBorg)で管理すれば、安全にリハビリを進めることができます。
今日の学びが明日の臨床の一助になれば幸いです。
参考文献
- 日本心臓リハビリテーション学会(2022).「-指導士資格認定試験準拠- 心臓リハビリテーション必携」増補改訂版. p50ー75.
- 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会(2021).「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」.https://www.jacr.jp/cms/wp-content/uploads/2015/04/JCS2021_Makita2.pdf.


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