
今回は、心リハ指導士試験の最難関である「心肺運動負荷試験(CPX)」のデータ解読について解説します!
はじめに
この記事は【後編】です。
CPXの禁忌やプロトコールなどの基礎知識は、先に【前編】をご覧ください。
👉 前回の記事はこちら:【前編】基礎・実施編へ
今回も引き続き、「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」と、安達仁先生著の「CPX・運動療法ハンドブック」をベースに解説します。
また他の参考書に手を出すよりも、この「必携」を徹底的に読み込むことが合格への近道です。
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ATの判別方法
ここが試験の山場です。「なぜATが決まるのか」を理解しましょう。
嫌気性代謝閾値(AT)とは?
ATは、有酸素代謝から無酸素代謝に移行する直前の運動強度のことを指します。

運動時のエネルギー代謝として、通常、酸素供給が十分な環境下(有酸素運動)においては、解糖系にてグルコースから産生されたピルビン酸はアセチルCoAとなり、これがTCA回路から電子伝達系を経由してH2OとCO2に分解され、ATPが産生されます。
運動強度が高くなると、有気的代謝のみではエネルギー源であるATPの産生が不十分になります。すると筋肉内の解糖系が亢進し、無気的代謝(嫌気性代謝)によるエネルギーが加わります。
この時、ピルビン酸の代謝産物として乳酸が産生されます。産生された乳酸は血液中の重炭酸イオン(HCO3-)によって緩衝され、その結果として過剰なCO2(二酸化炭素)が発生します。
ゆえに、この「有気的代謝に無気的代謝(嫌気性代謝)が加わる直前の運動強度」をATと定義されています。
主要な判定基準
ガス分析法によるAT決定には、以下のような判定基準が一般的に用いられています。
- VO2に対するVCO2の上昇点
- VO2に対するVEの上昇点
- 運動強度に対するR(ガス交換点)の上昇開始点
- VE/VCO2は増加しないがVE/VO2は増加する点
- PETCO2は増加しないがPETO2は増加する点

1.における判定基準を「V-slope法」といい、これら項目を複合的に指標を把握して各項目の経過からATを判定する方法を「Trend法」といいます。

メカニズムとしては、乳酸の緩衝によりCO2が過剰に産生されると、それを排出しようとして換気が亢進(Hyperventilation)するため、VEやVCO2の挙動からATを判定することができます。
その他項目について
酸素摂取量 (VO₂)とPeak VO₂
VO₂は単位時間当たりの酸素消費量で、運動負荷の増加とともに上昇します。
Peak VO₂は運動中に達した最高酸素摂取量で、運動耐容能と心機能の指標です。
最高酸素摂取量による心不全重症度(Weber分類など)において、%Peak VO2による区分は以下の通りです。
【Weber分類(重症度分類)】 心不全の重症度をPeak VO2で分類したものです。
| Class | 重症度 | Peak VO2 (ml/kg/min) |
| A | 軽症~正常 | > 20 |
| B | 軽症~中等症 | 16 – 20 |
| C | 中等症~重症 | 10 – 16 |
| D | 重症 | < 10 |
また2015年のレビューでは、%Peak VO₂ < 85%で有意な運動制限とされ、心臓移植適応ではPeak VO2 14mL/kg/min以下(β遮断薬服用下では12 mL/kg/min以下)が重症例の目安と示されています。
換気効率(VE vs VCO2slope)
- 分時換気量(VE)と二酸化炭素排出量(VCO2)の関係(傾き)。
- 心不全患者の「息切れ感」や「予後」を強く反映します。
- 基準値: 34(または35)以上は予後不良とされています。
心不全時の労作時の呼吸困難感を表す指標であるとされています。
換気当量(VE/VO2、VE/VCO2・minimum VE/VCO2)
- 酸素摂取量や二酸化炭素排出量1mL当たりに必要な分時換気量を。
- 換気効率を表す指標であり、解剖学的死腔と生理学的死腔に依存するとされる。
- VE/VO2はそれと異なりATで最低値を取るとされる。
- minimum VE/VCO2はVE/VCO2の最低値で28以下が正常。
酸素脈:O2Pulse(VO2/HR)
- 酸素摂取量を心拍数で割った値で「運動時の一回拍出量」の指標
- 正常なら負荷とともに増加しますが、心不全や虚血(心筋虚血)があると平坦化(フラット)または減少します。
終末呼気二酸化炭素分圧 (PETCO₂)・終末呼気酸素分圧 (PETO₂)
- 安静時PETCO₂は36〜42mmHg
- 運動開始時は指数関数的に増加し、その後プラトーが続きます。
- PETCO₂が低値または運動中に増加しない場合は、換気血流比不均衡や心拍出量の低下を示す。
- 心拍出量や骨格筋血流の指標
- maxETCO₂は、運動中に記録されるPETCO₂の最大値
- PETCO₂は運動中に発揮される肺血流量(=心拍出量)に依存する。
ガス交換比(RER、R)
- R = VCO2 / VO2
- 運動強度(努力度)の指標です。
- Peak VO2が信頼できる値(患者さんが本気を出した値)かどうかの判断基準として、終了時のRが1.10以上(できれば1.15以上)であることが望ましいとされます。
臨床応用 — 心臓リハビリテーションにおけるATの活用
運動処方・心リハプログラム設計への応用
心リハの運動療法において運動処方をする際は、「FITT」をもとに行う。
- F:Frequency、頻度
- I:Intensty、強度
- T:Time、時間
- T:Type、種類
ATを活用する方法について解説するので、「T:種類」を自転車エルゴメーターとして「I:強度」に関して進めていきます。
運動負荷試験に基づく運動処方決定の方法として、ATレベルでの処方が推奨されます。 ATレベルの運動強度は、持続的な運動が可能な強度であり、進行的な代謝性アシドーシス(血液が酸性に傾くこと)が伴わないため、安全性が担保された強度とされています。
「エビデンスレベルA」とされているため、最も重視すべき指標です。
AT処方のメリット
AT以下の運動では以下の特徴があり、医学的安全性が高いことがわかります。
- 乳酸の持続的上昇がない
- アシドーシスが起こらない
- 血中カテコラミンの著明な上昇がない
- 運動強度の増加に対する心拍応答が保たれている
これらにより、不整脈の誘発、著明な頻脈への移行、過度な血圧上昇による循環機能の破綻を防ぐことができます。
例題
問題①
心肺運動負荷試験においてAT(ml/min)はどこか、当てはまるものを選びなさい。

- 500ml/min
- 800ml/min
- 1000ml/min
- 1400ml/min
- 1600ml/min
●解答
クリックで開閉(詳細を表示)
- e.
問題②
上図の心肺運動負荷試験のグラフにおける運動処方に関して正しいものを選びなさい。
- 90watts
- HR105bpm
- R1.15
- 7.3METs(体重55㎏)
- 誤っているものはない
●解答
クリックで開閉(詳細を表示)
- a.
さいごに
最後までご覧いただきありがとうございました。 今回は【後編】として、CPXデータの読み方と運動処方への応用を解説しました。
試験本番では、実際に9パネルのグラフが出題され、「ATはどこか?」「予後不良因子はどれか?」を問われるケースが多いです。 「V-slope法で折れ曲がる場所」「VE/VO2が上がる場所」など、ATを決めるポイントを何度もグラフを見て練習しておきましょう。
今日の学びが、明日の臨床と合格への一助になれば幸いです。
参考文献
- 日本心臓リハビリテーション学会(2022).「-指導士資格認定試験準拠- 心臓リハビリテーション必携」増補改訂版. p197ー214.
- 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会(2021).「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」.https://www.jacr.jp/cms/wp-content/uploads/2015/04/JCS2021_Makita2.pdf.


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