
サルコペニア、フレイルの定義から食事療法について体系的に解説していきます!
はじめに
近年、サルコペニアやフレイル患者が増えてくる中、「どのような病態かイメージは何となくつくが、その定義や診断方法、運動療法などについて体系的に理解しきれていない」という方も多いと思います。 そこで今回は、サルコペニア・フレイルの全体像について、理学療法士・心リハ指導士の視点から体系的に解説していこうと考えています。
主に参考にした図書は、「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」と、日本心臓リハビリテーション学会が出版している「-指導士認定試験準拠- 心臓リハビリテーション必携 増補改訂版」です。
よかったらご参照ください。
また、他の参考書に手を出すよりも、この「必携」を徹底的に読み込むことが合格への近道です。
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サルコペニア・フレイルとは?
フレイル(Frailty)
定義
フレイルとは、高齢者における全身の予備能低下によりストレスへの脆弱性が亢進した状態を指す包括的概念であるとされています。
Heart Failure Association (HFA)による定義では、以下のように示されています。
「フレイルとは年齢に依存しない多次元的で動的な脆弱状態であり、ストレス要因による有害事象に対して個体を脆弱にするもの」とされている
The Dual Burden of Frailty and Heart Failureより引用
フレイルには、身体的側面(Physical Frailty)のみならず、認知機能低下や社会的サポート低下など複数の側面の障害が含まれるとされています。
高齢心不全患者はフレイルを発症しやすく、心不全患者の約半数がフレイルに該当するといった研究があります。加えてフレイル患者は1年以内の死亡リスクが2.13倍と高いことも知られています。 そのため、心不全患者に対してフレイルの評価、診断、治療は非常に重要なものとなってきています。
診断方法
日本では、Friedの表現型モデルを日本人向けに改訂したJ-CHS基準(Japanese version of Cardiovascular Health Study criteria)が用いられます。
以下の5項目のうち、3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイルと判定します。
| J-CHS基準 |
|---|
| 1. 体重減少 6ヶ月で2kg以上の(意図しない)体重減少 2. 筋力低下 握力:男性 < 28 kg、女性 < 18 kg 3. 疲労感 (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする 4. 歩行速度 通常歩行速度 < 1.0 m/s 5. 身体活動 「軽い運動・体操」および「定期的な運動・スポーツ」を両方とも「週に1回もしていない」 |
項目2(筋力)と4(歩行速度)はサルコペニアの基準と共通しています。つまり、サルコペニアが進行するとフレイルの判定にも直結することがわかります。
サルコペニア(Sarcopenia)
定義
サルコペニアに関して、サルコペニア診療ガイドラインでは、以下を定義として示してます。
サルコペニアとは、加齢あるいは慢性疾患に伴う骨格筋量の減少と筋力・身体機能低下を特徴とする症候群である
サルコペニアの定義と診断より引用
ここから、「骨格筋に焦点を当てた疾患」であり、前述した「フレイルの中核となる身体的要因」を表すものであることが考えられます。
分類
サルコペニアは、その原因によって以下の2種類に分類されます。
| サルコペニアの分類 |
|---|
| 1. 一次性サルコペニア(加齢性サルコペニア) 加齢以外に明らかな原因がないもの。 |
| 2. 二次性サルコペニア 加齢以外の明確な原因があるもの。 ・活動量に関連: 寝たきり、不活発な生活習慣、廃用など。 ・疾病に関連: 癌、重症臓器不全(心不全など)、炎症性疾患など。 ・栄養に関連: 摂取エネルギー・タンパク質不足、吸収不良など。 |
診断方法(AWGS 2019)
アジア人の体格を考慮したAWGS 2019(Asian Working Group for Sarcopenia 2019)の基準が標準的に使用されます。
診断の流れは「筋力低下」または「身体機能低下」がスクリーニングの入り口となり、確定診断には「筋量の低下」が必須です。
| 評価項目 | 男性 カットオフ値 | 女性 カットオフ値 | 備考 |
| ① 筋力 | 握力<28 kg | 握力<18 kg | |
| ② 身体機能 | 5回立ち上がり≧12秒 または 歩行速度 <1.0m/s | (男女共通) | SPPB≦9点である場合も該当する |
| ③ 骨格筋量 | DXA:<7.0kg/m² BIA:<7.0kg/m² | DXA:<5.4 kg/m² BIA:<5.7 kg/m² | SMI (Skeletal Muscle Mass Index) |
- サルコペニアの可能性: ①または②に該当(※設備がない環境での評価)
- サルコペニア: 「①または②」+「③」
- 重症サルコペニア: 「①、②、③のすべて」に該当
運動療法
サルコペニア・フレイル対策の基本は運動と栄養であり、特に運動療法は心不全患者においても重要な介入とされています。
フレイルやサルコペニアに対する運動療法は、単一の運動ではなく、有酸素運動・レジスタンストレーニング・バランストレーニングなどを組み合わせた複合的な運動療法(Multicomponent intervention)が推奨されています。
ここでは、サルコペニア・フレイルに対する運動療法を一例として紹介します。有酸素運動とレジスタンストレーニングは、「FITT」で記載します。
| 運動療法 |
|---|
| • 有酸素運動(持久力トレーニング) F:週5回以上 I:Borg scale11~13(楽~ややきつい) T:1日合計20〜30分以上 T:ウォーキング、エルゴメーターなど |
| • レジスタンストレーニング(筋力トレーニング) F:週2〜3回 I:8〜10回繰り返せる負荷で、40〜60%の強度を高速で行う T:ダンベル、ウェイトマシン、弾性バンド、または自重 T:1セット8〜12回2〜3セット |
| • バランストレーニング(転倒予防) 継ぎ足歩行、障害物歩行、不安定な足場での保持など、徐々に難易度を上げる |
国際サルコペニア・フレイル研究会議(ICFSR)のガイドラインでは、サルコペニア患者に対し、ダンベル、ウェイトマシン、弾性バンド、または自重を用いたレジスタンストレーニングを処方することを強く推奨しています。
食事療法
サルコペニアやフレイルは身体機能障害を起こしやすい状態であり、栄養状態と密接な関係があります。 高齢心不全患者では低栄養(低アルブミン血症など)がしばしば認められ、これがサルコペニア・フレイルの一因となります。実際、サルコペニア合併心不全患者では、非合併例に比べ予後不良であることも指摘されています。
サルコペニア・フレイルに対する食事療法のポイントは何なのか解説していきます。
必要栄養量
実測または予測式を用いて必要栄養量を算出します。
予測式:Harris-Benedictの式や、体重当たり25~30kcal/日とする簡易式が用いられます。
蛋白質
サルコペニアの予防には、体重当たり1.0~1.2g/日(※腎機能低下例を除く)の蛋白質摂取が推奨されています。 重要なのは摂取タイミングです。1食でまとめて摂るのではなく、1日3食に分けて偏りなく摂取することが、筋合成を高める上で望ましいとされています。
ビタミンDの摂取
心臓リハビリテーション必携によると、ビタミンDの摂取による効果として以下に示しています。
ビタミンDはテストステロンの生成を促し骨格筋の蛋白質合成が促進されるため。サルコペニア予防には重要なビタミンである。
-指導士認定試験準拠- 心臓リハビリテーション必携 増補改訂版より引用
血中ビタミンD濃度が低い場合は、サプリメント等による補充も検討されます。
例題
問題①
1.サルコペニア・フレイルの食事管理について誤っているものを2つ選びなさい。
- 必要栄養量は体重あたり20kcal/日を目安に摂取する。
- 蛋白質摂取量は体重1.0‐1.2g/日を目安に摂取する。
- ビタミンDはテストステロン生成を阻害して骨格筋の蛋白質合成を阻害する。
- 蛋白質摂取は同化の観点から偏りなく3食摂取することが望ましい。
- 高齢CKD患者においては蛋白質摂取量を0.8g/標準体重/日を目安とする。
●解答
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- a,c.
問題②
2.サルコペニア・フレイルの食事管理について誤っているものを2つ選びなさい。
- サルコペニアとフレイルに共通する予防および介入方法は栄養療法と運動療法である。
- 日本語版CHS基準では男性の筋力低下は26kg未満である。
- サルコペニアのリスクが高い症例にはSARC-Calfなどのスクリーニングを行うことが望ましい。
- SPPBが9点未満の場合は低身体機能としてサルコペニアの可能性があると診断される。
- サルコペニアは可逆性があり、適切な介入で改善が見込まれる。
●解答
クリックで開閉(詳細を表示)
- b.e.
さいごに
ここまでご覧いただきありがとうございました。
サルコペニアとフレイルの定義や診断方法から治療方法について解説しました。ガイドラインでは、サルコペニアに対してレジスタンストレーニングを行うことを強く推奨しており、個別ケースに応じてテーラーメイドに有酸素運動やバランス訓練などの運動療法をプログラムに組み込むことが重要であることが分かったかと思います。
前回と同様に例題を用意したので、解いてみると理解がさらに深まると思います。
今回の学びが明日の臨床の一助となれば幸いです。
参考文献
- 日本心臓リハビリテーション学会(2022).「-指導士資格認定試験準拠- 心臓リハビリテーション必携」増補改訂版. pp178-181, 327-328.
- Vitale C, Spoletini I, Rosano GM. The Dual Burden of Frailty and Heart Failure. Int J Heart Fail. 2024 Jul;6(3):107-116. https://doi.org/10.36628/ijhf.2023.0057
- 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会(2021).「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」.https://www.jacr.jp/cms/wp-content/uploads/2015/04/JCS2021_Makita2.pdf.
- Ambarish Pandey, et al. Frailty Status Modifies the Efficacy of Exercise Training Among Patients With Chronic Heart Failure and Reduced Ejection Fraction: An Analysis From the HF-ACTION Trial. Volume 146, Number 2 2022.
- Prapromporn Pinijmung, et al.Prevalence and Impact of Sarcopenia in Heart Failure: A Cross-Sectional Study. The Open Cardiovascular Medicine Journal. 2022. https://opencardiovascularmedicinejournal.com/VOLUME/16/ELOCATOR/e187419242202240/
- Dent E, et al. International Clinical Practice Guidelines for Sarcopenia (ICFSR): Screening, Diagnosis and Management. J Nutr Health Aging. 2018;22(10):1148-1161. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30498820/
- Izquierdo M, et al. International Exercise Recommendations in Older Adults (ICFSR): Expert Consensus Guidelines. J Nutr Health Aging. 2021;25(7):824-853. doi: 10.1007/s12603-021-1665-8. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34409961/


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