冠動脈バイパス術(CABG)後のリハビリテーションに必要な基礎知識を徹底解説。オンポンプとオフポンプ(OPCAB)の違い、使用されるグラフトの特徴、そしてリハビリ中に警戒すべき「術後心房細動」や「縦隔炎」などの合併症について、心リハ指導士が解説します。

最近、冠動脈バイパス術(CABG)後の患者さんを担当することになったんだけど、どこに注意して進めればいいかわからなくて…。
胸を開く手術だし、ドレーンも多くて動かすのにすごく緊張するよ。

開心術後は管や機器が多くて、最初は本当に緊張するよね。でも、カルテで『どんな術式で、どの血管(グラフト)を使ったか』を知れば、見るべきポイントとリスク管理が明確になるよ。
今回は、CABGの基礎知識と、リハビリで絶対に注意すべき合併症について分かりやすく解説するね!
- 人工心肺を使う?使わない?「オンポンプ」と「OPCAB」の違い
- 胸の傷だけじゃない!グラフト(採取した血管)の種類
- 絶対に防ぎたい「創部感染(縦隔炎)」のリスク因子
- 術後2~3日目がピーク!「術後心房細動(POAF)」の注意点
はじめに
冠動脈バイパス術(CABG)は、カテーテル治療(PCI)と並ぶ虚血性心疾患の主要な治療法です。 胸骨正中切開や人工心肺の使用など、身体への侵襲が非常に大きいため、私たちセラピストは「術式によるリスクの違い」や「起こりうる合併症」を正確に把握しておく必要があります。
今回は【前編】として、CABGの概要とリスク管理の基礎を解説します。
※主に『2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン』等を参考に作成しています。
CABGの適応と種類
CABGは、主に左冠動脈主幹部(LMT)病変や、糖尿病を合併した多枝病変など、カテーテル治療(PCI)では長期予後が見込めない重症例に適応されます。
人工心肺(ポンプ)の使用有無
手術には、人工心肺装置を使うかどうかで大きく2つのアプローチがあります。

- On-pump CABG(オンポンプ): 人工心肺装置を使い、心臓の動きを一時的に止めて(または動かしたまま)手術します。
- Off-pump CABG(OPCAB:オプキャブ): 人工心肺を使わず、心臓を動かしたまま手術します。
欧米ではOn-pump(人工心肺あり)が主流ですが、日本では高い技術力を背景にOPCAB(オフポンプ)が非常に普及しており、全CABGの約65%がこの方法で行われています。
On-pumpとOff-pumpの違いまとめ
リハビリを進める上で、担当患者さんがどちらの術式だったかをカルテで確認することは、リスク管理において極めて重要です。
| 項目 | On-pump (人工心肺あり) | Off-pump (OPCAB) |
|---|---|---|
| メリット |
・多枝バイパスや完全血行再建がしやすい。 ・グラフトの開存率が安定しやすい。 |
・低侵襲(体に優しい)。 ・脳卒中などの合併症リスクが低い。 ・早期離床が進めやすい。 |
| デメリット |
・人工心肺による全身の炎症反応や脳梗塞リスクがある。 ・入院期間が長くなる傾向。 |
・心臓を動かしながら縫うため、技術的に難易度が高い。 ・長期的なグラフト開存率がやや低下するとの報告も。 |
| 入院期間 (目安) |
約10日~2週間 | 約1週間~10日 |
切開創の違い

- 胸骨正中切開: 最も一般的。胸骨を縦に切るため、術後は「胸骨の離開予防(上肢負荷の制限)」が必要です。
- MICS CABG(低侵襲): 肋骨の間から行う小切開手術。回復は早いですが、視野が狭いため適応は限られます。
- ハイブリッド冠動脈血行再建 (HCR):外科手術(CABG)とカテーテル治療(PCI)を組み合わせて行う治療法です。例えば、重要な血管(左前下行枝)には外科的にバイパスをつなぎ、その他の血管はカテーテルでステントを留置するといった方法がとられます。
使用される血管(グラフト)
バイパスとして別の場所から採取・使用される血管は「グラフト」と呼ばれます。どこから血管を採ったかによって、リハビリ時に観察すべき創部(傷口)が変わります。

- 内胸動脈(ITA): 特に左内胸動脈(LITA)を左前下行枝(LAD)につなぐバイパスは長期的な開存率が極めて高く、最も信頼性の高いグラフトとされています。
- 大伏在静脈(SVG): 採取しやすく一般的ですが、動脈グラフトに比べると長期的な開存率は劣る傾向があります。
- 橈骨動脈(RA): 適切な症例で使用すれば静脈グラフトよりも良好な成績が期待できます。
- 胃大網動脈(GEA)
複数の動脈グラフト(多改動脈再建)を使用することで、長期的な予後が改善する可能性が示唆されています。
術後合併症と管理
術後合併症には、主に「創部感染」「術後心房細動」「腎機能障害」「その他」の4つがあります。リハビリ離床時はこれらを必ずチェックします。
最も恐れるべき致命的な合併症です。死亡率が高く、再手術が必要になります。
- リスク因子: 糖尿病、肥満、両側内胸動脈の使用など。
- リハビリの注意: 胸の創部の発赤、浸出液、胸骨の不安定感(動いた時のクリック音)がないか毎回確認しましょう。
頻度は20~30%と非常に高い確率で起こり、脳梗塞の原因にもなります。
- 時期: 術後2~3日目が発症のピークです。
- 対応: リハビリ中に脈が乱れたり(不整脈)、急な頻脈・血圧低下があれば、すぐに心電図モニターを確認し看護師・医師へ報告します。
人工心肺の影響などで、15~30%前後の確率で発生します。
- 注意: 尿量が減っていないか、全身の浮腫(むくみ)が増えて体重が急増していないかを確認します。
その他
- 術後脳梗塞: 1~2%。麻痺や呂律の確認が必要です。
- 低心拍出量症候群(LOS): 術後早期に血圧が維持できない状態です。
- 出血再手術
- 肺合併症
- 肝機能障害
さいごに

ここまでご覧いただきありがとうございます。
今回は、冠動脈バイパス術の術式や、術式の違い、術後合併症について解説しました。
『OPCABだから離床を少し早めに進められそうだな』
『足から静脈グラフトを採っているから、歩行時の足の傷の痛みにも配慮しよう』
『術後2日目だから、POAF(心房細動)の出現に特に注意してモニターを見よう』
このように、手術の内容を知っているだけで、リハビリのリスク管理の質がグッと上がります。
次回は【後編】として、具体的な「術後リハビリテーションの進め方とプログラム」について解説します!
👉 次回の記事はこちら:【後編】CABG術後のリハビリプログラム|離床から退院指導まで
急性期病院に勤務する現役理学療法士(臨床経験6年)。心臓リハビリテーション指導士の資格を活かし、若手セラピストが「明日からすぐ使える」実践的な知識を分かりやすく発信中!データ分析や医療AIにも関心があります。
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参考文献
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- Lawton JS, et al. 2021 ACC/AHA/SCAI Guideline for Coronary Artery Revascularization: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines. J Am Coll Cardiol. 2022 Jan 18;79(2):e21-e129. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34895950/
- Kuwahara G, Tashiro T. Current Status of Off-Pump Coronary Artery Bypass. Ann Thorac Cardiovasc Surg. 2020 Jun 20;26(3):125-132.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7303318/
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- 日本循環器学会/日本心臓血管外科学会. 安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018 年改訂版), 2018.chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/09/JCS2018_nakamura_yaku.pdf.
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