
担当してる患者さんが「仕事に戻りたい」って言うんだけど、具体的に何を基準に許可を出せばいいのか迷うなぁ…。

確かに、「どのくらい動いていいの?」という線引きは難しいよね。
今回は、METsやCPXデータを使った「社会復帰・復職支援の具体的な基準」について解説していくね!
身体活動レベルの基本「METs(メッツ)」

まずは、活動の強さを表す共通言語「METs」を押さえましょう。1METsは「座って安静にしている状態」です。これを基準に何倍の強さかを判断します。
活動強度:メッツ(METs)
METs(Metabolic Equivalents)とは、40歳で体重70㎏の白人男性が安静座位で呼気ガス分析を用いて測定した酸素摂取量(3.5ml/kg/min)を基準とし、その何倍の強度であるかを示した国際標準の身体活動強度の単位です。
1 METs ≒安静座位時の酸素摂取量(3.5 ml/kg/min)
【生活動作のMETs目安】
- 3 METs(軽作業): 平地を歩く、家事(掃除機、洗濯干し)
- 4 METs(中強度): 自転車通勤、階段をゆっくり上る、早歩き
- 6 METs以上(高強度): 重い荷物を運ぶ、ジョギング、スコップでの雪かき
※詳しい一覧は、国立健康・栄養研究所の「身体活動のメッツ(METs)表」なども参考にしてください。
作業強度の分類とリスク管理
仕事内容を以下の3段階に分類し、患者さんの心臓リスク(重症度)と照らし合わせて判断します。
| 区分 | 強度 | 特徴 |
|---|---|---|
| 軽作業 | 3METs未満 | デスクワーク、管理業務、運転(自家用車) ※座位中心で移動が少ない |
| 中作業 | 3⁻6METs | 立ち仕事、接客、軽い荷物運び、製造ライン ※歩行や立位が主体 |
| 高作業 | 6METs超 | 建設業、農業、介護、配送業 ※重量物の運搬、腹圧がかかる作業 |
これに加え心疾患のリスクがどの程度あるかによって許容される範囲なのか、条件が必要になるのか、制限されるのかを評価・判断します。
心疾患リスク別の許容範囲
- 軽度リスク: 重作業も条件付きでOK。
- 中等度リスク: 中作業は条件付きOK、重作業は原則禁忌。
- 高度リスク: 軽作業のみ条件付きOK。中作業以上は原則禁忌。
CPX(運動負荷試験)データの活用

C「なんとなく」ではなく、客観的なデータ(CPX)に基づいて判断することが、プロの仕事です。
AT(嫌気性代謝閾値)の活用
基本的には、「AT(有酸素運動の上限)」を超えない範囲での就労を目指します。 特に「AT時の心拍数」や「1分前のワット数」を指標にし、仕事中の心拍数がこれを超えないように指導します。
Peak VO2(最高酸素摂取量)の活用
ATが不明瞭な場合などに使用します。一般的にPeak VO2の40~85%程度の強度が推奨されます。
👉 あわせて読みたい:【必見】心リハ指導士が教える ATの判別法:CPXにおける実践ガイド
復職支援の具体的なポイント
単にMETsだけでなく、「心臓への負担のかかり方(血圧上昇など)」を考慮した指導が必要です。
⚠️ 特に注意!「静的労作」の罠
「重い荷物をじっと持ち続ける」ような静的労作は、動きが少なくても血圧が急上昇し、心臓に大きな負担(後負荷)をかけます。 METsの数値は低くても、心不全患者さんにはリスクが高いため注意が必要です。
場面別・具体的な指導リスト
重いものを持つときは体全体を使い、筋肉を使いすぎない工夫をします。急激な動作は避け、ゆっくりとした動作を心がけてもらいます。さらに過剰に重いものであれば息を止めたり、力を入れすぎてしまい血圧が高くなりますので息み動作は避けるように指導しましょう。

【重量物の運搬】
- 「息を止めて(怒責)」持ち上げない。
- 体全体を使って、ゆっくり持ち上げる。
- 可能なら台車を使う、小分けにして運ぶ。
【トイレ・しゃがみ込み】
- 和式トイレや、深くしゃがむ姿勢は血圧変動が大きいので避ける。
- 急に立ち上がらない(起立性低血圧の予防)。
- 排便時は長時間いきまない。
【労働環境の調整】
- 夜勤・長時間労働: リズムが崩れるため、最初は日勤・短時間から再開し、徐々に慣らす。
- 寒冷環境: 血管が収縮するため、防寒対策を徹底する。
- 運転業務: 自家用車はOK(中等度リスク以下)。ただし、バスやタクシーなどの「職業運転手」は、冠動脈疾患がある場合、厳しい制限(就業禁止含む)があるため主治医・産業医と要相談。
労働環境

心疾患の症状・病態が悪化する恐れのある労働環境を変更するよう指導する場合があります。
- 夜勤
- 交代制労働
- 精神的ストレスの過大の労働・職場
- 寒暖差の激しい環境での作業
- 長時間労働
- 自動車運転労働など
こういった労働環境に該当する職業についている方は、社会復帰される際は夜勤や早朝業務は外してもらい、短時間から就業開始して少しずつ就業時間を延ばしていくよう指導します。
半休を利用してゆっくり開始することもできますし、最近ではフレックスタイム制を採用している会社・企業も増えてきているため柔軟に働きつつ心リハ時間を活用するようアドバイスすることもあります。
パイロットや電車、バスなどの公共交通機関の運転手は、冠動脈疾患を有している場合もしくは疑いがある場合は、一般的に就業禁忌となります。
スポーツ・趣味の再開基準

「仕事」だけでなく「楽しみ」を取り戻すことも心リハの重要な役割です。
スポーツについて
スポーツ再開に関しては、原則として以下の事項が定められています。
- 持久力運動
- 大筋群を使うリズミカルな動的運動
- 歩行・ジョギング、水泳、サイクリングなどの中強度以下の運動
- 競技性のない娯楽レベルの運動強度
- 等尺性運動は避ける
加えてCPXなどの運動負荷試験を行い運動耐容能を把握して、作業強度の分類の表を用いて復帰可能かどうか主治医などと協議して再開を判断します。
日常生活について
自家用車の運転は軽強度であるため、心血管リスクが中等度以下である場合は、発症後早期(数週目以降)に許可されることが多いです。 心臓外科術後の患者さんに対しては、胸骨切開をしているので骨癒合の状態を確認し、概ね術後2~3ヶ月以降に許可されることが一般的ですが、主治医の判断が必須となります。
さいごに


ここまでご覧いただきありがとうございます。
今回は、作業強度分類や身体活動の評価基準、そして患者さんが社会復帰・スポーツ再開・復職を安全に進めるための指導ポイントを整理しました。
心臓リハビリは、個々の運動耐容能や作業強度を客観的に評価・調整することで、再発予防と生活の質向上を両立させる支援となります。
CPXデータやMETsという「共通言語」を使いながら、主治医、産業医、そして職場の理解を得て、患者さんが安心して社会に戻れるようサポートしていきましょう。
参考文献
- 「-指導士資格認定試験準拠- 心臓リハビリテーション必携」増補改訂版, p352-355, 2022.
- 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン, 2021.


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