【肺高血圧症】リハビリ前のフィジカルアセスメント完全ガイド|自覚症状と聴診のポイント

心リハ・臨床実践
この記事の概要

肺高血圧症(PH/PAH)のリハビリにおけるフィジカルアセスメントを徹底解説します。労作時呼吸困難や「Bendopnea(前屈時呼吸困難)」などの自覚症状から、II音亢進・Graham Steell雑音などの聴診所見、6MWTなどの評価指標まで、リスク管理に役立つ知識を網羅しています。

こ~だい
こ~だい

最近、肺高血圧症の病態生理はわかってきたんだけど、いざ患者さんを目の前にすると、どこを評価すればいいかわからなくて…。

ゆ~き
ゆ~き

PH(肺高血圧症)は、バイタルだけでなく「特有のサイン」を見逃さないことがリスク管理の鍵になるよ。

今回は、明日から使える「肺高血圧症のフィジカルアセスメント」について解説していくね!

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✓ 3分でわかる!この記事のポイント
  • 要注意な自覚症状「Bendopnea(前屈時呼吸困難)」とは
  • 聴診のポイントと「右心不全」のチェックリスト
  • 重症度を判断する「WHO肺高血圧症機能分類」の目安
  • リハビリを安全に進めるための「4つの評価軸」

はじめに

肺高血圧症(PH/PAH)は、労作時の呼吸困難感や易疲労感により、QOL(生活の質)が著しく低下する進行性の疾患です。

私たちセラピストが安全にリハビリを進めるためには、PH特有の症状を「十分にアセスメント」し、増悪の兆候を早期に察知する能力が求められます。今回は、現場で役立つフィジカルアセスメントのポイントを解説します。

※PHの病態生理やリハビリの基礎・禁忌については、前回の記事をご参照ください。

👉 あわせて読みたい:【保存版】肺高血圧症のリハビリ|禁忌・運動方・ADL指導を心リハ指導士が解説

PHの自覚症状(問診のポイント)

初期は安静時の症状が乏しいですが、進行すると特異的な症状が現れます。毎日のリハビリ前の問診で、以下の変化がないかを確認しましょう。

初期症状

  • 労作時呼吸困難: 最も一般的で主要な症状です。病気が進行するにつれて、より軽い労作でも息切れが生じるようになります。
  • 易疲労感・脱力感: 心拍出量の低下により、骨格筋への酸素供給が不足することで生じます。

進行期・その他の症状

特に「Bendopnea(ベンドプネア)」は、心不全・右心負荷の増悪を示唆する非常に重要なサインです。

症状名 特徴・メカニズム
前屈時呼吸困難
(Bendopnea)
靴紐を結ぶなど、前かがみになった時に息切れが増強する症状。腹部圧迫による胸腔内圧・静脈還流量の変化が原因とされます。
失神
(Syncope)
労作時や直後に起こる脳血流低下。心拍出量が需要に全く追いついていない極めて重篤なサイン(運動中止基準)です。
動悸 不整脈や、低心拍出を補おうとする代償的な頻脈に関連して自覚します。
労作時胸痛 拡張した太い肺動脈が、左冠動脈主幹部(LMT)を物理的に圧迫して生じることがあります。
嗄声(声枯れ)
(オルトナー症候群)
拡張した肺動脈が、声帯を支配する「左反回神経」を圧迫して声が枯れる現象です。

PHの他覚的所見(視診・聴診)

「ただなんとなく胸の音を聞いている」状態になっていませんか?肺高血圧症の患者さんでは、以下の特有の音やサインを「狙って」聴き・観に行きます。

聴診のポイント(心音・呼吸音)

  • II音の亢進(P2亢進): 肺動脈圧の上昇により、肺動脈弁が勢いよく閉じるため、II音が大きく聴こえます。
  • Graham Steell雑音: 肺動脈弁閉鎖不全(PR)による拡張期雑音です。
  • 三尖弁逆流(TR)雑音: 右室負荷による収縮期雑音です。
  • III音(右室性): 右心不全の増悪を示唆します。

右心不全(RV failure)の徴候

右心系がへばってくると、全身に血液を運べなくなり(低心拍出)、血液がうっ滞します(後方不全)。

⚠️ 毎日のリハビリ前:右心不全チェックリスト
  • 頸静脈の怒張・拍動(首の血管がパンパンに浮き出ているか)
  • 下肢の浮腫(すねや足の甲を指で押して凹みが戻らないか)
  • 肝腫大・腹水(お腹が張って苦しくないか)
  • 末梢チアノーゼ・四肢冷感(手足が冷たく紫色になっていないか=低拍出のサイン)

原因疾患を示唆する所見

先天性疾患や膠原病由来の症状かどうかを判断する所見になってきます。

  • ばち指: チアノーゼ性心疾患や肺疾患で見られます。
  • 強皮症の徴候: 皮膚硬化やレイノー現象があれば、膠原病(全身性強皮症)由来のPHを疑います。

リハビリ評価の「4つの軸」

PHのリハビリ評価は、エビデンスに基づいて以下の4つを組み合わせて行います。

運動耐容能(重症度・6MWT・CPX)

PHのリハビリ評価は、エビデンスに基づいて以下の4つを組み合わせて行います。

  • 重症度(WHO機能分類)
  • 運動耐容能(6MWT・CPX)
  • 右心機能・肺循環(エコー等の連携)
  • 骨格筋機能・活動量

重症度(WHO機能分類)

「普段の生活でどれくらい動けるか(自覚症状)」による重症度分類も必ず確認します。NYHA心機能分類とほぼ同じですが、PH患者専用に定義された「WHO肺高血圧症機能分類」を用います。

クラス 定義 リハビリでのイメージ
クラス Ⅰ 身体活動に制限はない。
日常的な身体活動で呼吸困難、疲労、胸痛、失神を生じない。
【ほぼ健常】
階段昇降や早歩きも問題なく可能。積極的な運動療法の対象。
クラス Ⅱ 身体活動に軽度制限がある。
安静時は無症状だが、日常的な身体活動で症状が生じる。
【坂道・階段で息切れ】
平地歩行はOKだが、階段や重い荷物を持つと息が切れるレベル。
クラス Ⅲ 身体活動に高度制限がある。
安静時は無症状だが、日常的な身体活動より軽い労作で症状が生じる。
【平地歩行・ADLで息切れ】
着替え、入浴、ゆっくりした平地歩行でもハアハアしてしまう状態。低負荷からの慎重な介入が必要。
クラス Ⅳ いかなる身体活動も不快感なく行うことができない。
安静時にも右心不全徴候や呼吸困難があることがある。
【安静時もつらい】
じっとしていても苦しい。積極的な運動は禁忌となる場合が多く、まずはADL調整やコンディショニングが中心。

運動耐容能の評価(6MWT・CPX)

  • 6分間歩行試験(6MWT): PHの標準的評価です。予後と強く相関し、薬やリハビリの効果判定(数十mの改善など)に使われます。
  • CPX/CPET(心肺運動負荷試験): Peak VO₂、VE/VCO₂ slope(換気効率)、O₂ Pulseなどが予後規定因子となります。

👉PHの特徴的パターン:低Peak VO₂、高VE/VCO₂(過換気)、低O₂ Pulse(拍出量が増えない)。

自覚症状(Borgスケール)

  • 運動時の修正Borgスケールで「息切れ」と「脚の疲労」を分けて評価します。
  • 「症状増悪とCPET/6MWT指標の乖離」がある症例では、筋力低下や不安・抑うつなど他要因をスクリーニングする必要性が指摘されています。
  • 注意点:「症状は悪化しているのに、6MWTの距離は保たれている」場合、無理をしている(過負荷)可能性があります。数値と自覚症状の乖離に注意しましょう。​

右心機能・肺循環(エコー連携)

セラピスト単独では難しいですが、心エコー所見(右室サイズ、推定肺動脈圧)やBNP値を把握し、運動負荷が安全域にあるかを確認します。

骨格筋機能・活動量

PAH/PH患者では末梢骨格筋の萎縮・筋力低下が運動制限の一因とされています。

  • 評価項目: 握力、下肢筋力(ISO-Forceなど)、反復立ち上がりテスト(CS-30)、一日の歩数など。
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さいごに

ゆ~き
ゆ~き

ここまでご覧いただきありがとうございます。

今回は、肺高血圧症の症状とそのアセスメントについて解説しました。

肺高血圧症のアセスメントは、単に『6分間で何メートル歩けるか』を測るだけではありません。 『靴紐を結ぶ時に苦しくないか(Bendopnea)?』『Ⅱ音は亢進していないか?』『首の血管(頸静脈)は張っていないか?』といった、ベッドサイドでのフィジカルサインを丁寧に拾うことで、急変を防ぎ、安全な運動療法を提供することができます。

今回の知識を、明日の臨床でのアセスメントとリスク管理にぜひ役立ててくださいね!

ゆ~き
ゆ~き / 理学療法士・心リハ指導士

急性期病院に勤務する現役理学療法士(臨床経験6年)。心臓リハビリテーション指導士の資格を活かし、若手セラピストが「明日からすぐ使える」実践的な知識を分かりやすく発信中!データ分析や医療AIにも関心があります。

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▼ 心不全の症状についてはこちら

▼ 肺高血圧のリハビリについてはこちら

参考文献

  • O’Donnell DE, et al. Advances in the Evaluation of Respiratory Pathophysiology during Exercise in Chronic Lung Diseases. Front Physiol. 2017 Feb 22;8:82.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28275353/
  • 2022 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension: Developed by the task force for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension of the European Society of Cardiology (ESC) and the European Respiratory Society (ERS). Endorsed by the International Society for Heart and Lung Transplantation (ISHLT) and the European Reference Network on rare respiratory diseases (ERN-LUNG).
  • Pezzuto B, et al. The Current Role of Cardiopulmonary Exercise Test in the Diagnosis and Management of Pulmonary Hypertension. J Clin Med. 2023 Aug 23;12(17):5465.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37685532/
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