
担当してる外来患者さんが良くなってきて仕事を復帰したいっていうんだけど具体的に何を基準に許可を出せばわからないな・・・。

確かに社会復帰するときに何を基準にしたらいいかわからないことが多いよね。
今回は、そんな「社会復帰に対する支援」に関して解説してくね。

待ってました!よろしく!
はじめに
心リハの最終ゴールを社会復帰として目標に掲げている医療従事者や患者さんは多いと思います。ただ疾患の重症度によっては「動いていいの?」「仕事に戻れる?」という患者の不安が多いと思います。
医療者が正しく指導することで安全性と予後を高められますので、ここではそんな基準や分類、職業・作業に必要な活動強度をもとに患者さんのリスクに応じた評価・指導について解説していきます。
身体活動レベルの判断に必要な基本知識
活動強度:メッツ(METs)
METs(Metabolic Equivalents)とは、40歳で体重70㎏の白人男性が安静座位で呼気ガス分析を用いて測定した酸素摂取量(3.5ml/kg/min)を基準とし、その何倍の強度であるかを示した国際標準の身体活動強度の単位です。
1 METs ≒安静座位時の酸素摂取量(3.5 ml/kg/min)
生活活動や運動強度を具体的な数値で比較・表示しやすく、医学的な意思決定や患者指導が容易になります。
- 3METs:平地歩行(67m/分)、家財道具の片づけなど
- 3.5METs:軽い荷物運び、風呂掃除など
- 4METs:自転車に乗る(≒16km/時未満、通勤)、ゆっくり階段を上るなど
ネットには厚生労働省「e-ヘルスネット」や国立健康・栄養研究所「身体活動のメッツ(METs)表」などのMETs表がありますのでぜひとも活用してみてください。
作業強度の分類
患者さんの生活状況に応じて強度を評価する方法が作業強度を分類する方法です。
METs(代謝当量)を指標として、身体負荷を3段階に分類します。
| 区分 | 強度 | 特徴 |
|---|---|---|
| 軽強度の作業 | 3METs未満 | 座位中心で、体位変換や軽い移動が主体 |
| 中強度の作業 | 3⁻6METs | 立位が多く、歩行や簡単な荷物運搬を伴う |
| 高強度の作業 | 6METs超 | 腹圧がかかる、重量物を扱うなど |
これに加え心疾患のリスクがどの程度あるかによって許容される範囲なのか、条件が必要になるのか、制限されるのかを評価・判断します。
- 軽度のリスク: 高強度の作業のみ条件付許容となる場合があります。
- 中等度のリスク: 中強度の作業では条件付許容、高強度の作業では禁忌となる場合があります。
- 高度のリスク: 軽強度の作業のみ条件付許容となりますが、中強度以上の作業では禁忌となります。
CPX(AT、Peak VO₂)を用いた運動許容の評価
CPXを用いた運動許容の評価には、ATによる運動処方とPeak VO2による運動処方があります。
ATによる運動処方
ATによる運動処方に関して以前の内容をご参照ください。
基本的には、ATHRやAT-1分前の運動強度(ワット数)を用いて運動処方を行います。
復職調整を行う際には、職種のヒアリングに加えて、CPX・自覚症状・バイタル変化を統合し、段階的に再開する目標を設定します。特に重量物の運搬や腹圧がかかる作業は、虚血や不整脈の誘発リスクがあるため、ATを超えない範囲での実施が推奨されます。
Peak VO2による運動処方
Peak VO2による運動処方では、Peak VO2の40~85%の心拍数で行うことが推奨されています。 ですが臨床ではAT HRやAT 1分前のワット数、RPE(自覚的運動強度)で処方されることが多く、Peak VO2は補完的に使用されることが多い印象です。
CPXを実施してPeak VO2を測定できたが、ATが決定できない場合(波形が不明瞭な場合など)において用いられることが多いです。
復職の判断基準と支援
復職の可否を専門的に判断するためには、まず仕事中の労作を「静的労作(動きの少ない力仕事)」と「動的労作(動きのある作業)」に分類し、それぞれの強度が何METsに相当するかを評価します。
特に注意が必要なのは「静的労作」です。 重い荷物を持ち続けるなどの静的労作は、METs(酸素消費量)としては低くても、血圧を急激に上昇させ心臓に負担をかける(後負荷が増大する)特性があります。そのため、単なるMETsの数値だけでなく、実際の作業姿勢や力の入れ方を把握し、疾患に応じた具体的な動作指導を行う必要があります。
最終的な復職判断は、身体機能だけでなく、以下の社会的要因も踏まえて行います。
- 作業環境: 寒冷環境や階段の有無など
- 勤務形態: 時間外労働(残業)、夜勤、出張の可否
- 通勤手段: 公共交通機関の混雑具合や運転のストレス
- 通院環境: 定期的な受診が可能か
これらを丁寧に聴取したうえで、主治医や産業医、職場と連携し、安全な復職プランを提案します。
重量物の運搬
重いものを持つときは体全体を使い、筋肉を使いすぎない工夫をします。急激な動作は避け、ゆっくりとした動作を心がけてもらいます。さらに過剰に重いものであれば息を止めたり、力を入れすぎてしまい血圧が高くなりますので息み動作は避けるように指導しましょう。
しゃがみ込みを伴う労作
しゃがむときに息を止めると血圧が急上昇し、心臓に過度な負荷がかかるため、呼吸を止めずにゆっくりと動作を行うよう指導します。
急激な動作や素早い立ち上がりは心拍数や血圧を急激に変動させるため、動作はゆっくりと安全に行うことを勧めます。
排便動作
長時間の排便による息み動作は血圧上昇の要因となるため注意が必要です。
強度の高い作業・業務

作業強度の分類の表に関して心疾患のリスクが中等度以上の場合は、静的労作を伴う労働は、1段階軽いものとするよう指導します。また高所作業や重要物の運搬、建設現場の改築作業を伴う場合は、業務時間の短縮や作業内容・環境の変更をお願いする場合もあります。
心臓外科手術後の患者さんに対しては、胸骨の癒合状態によりますが、一般的に術後2~3ヶ月程度は上肢に重い負荷(数kg以上)がかかる労作は避けるように指導します。
農業に関しては、シャベルで土や泥をすくう作業や耕作作業の際は、座位または立位などの軽負荷でできるような農業機械を使用した方法をお伝えします。家畜への餌やりや苗木植栽などは人に任せるように指導します。
労働環境

心疾患の症状・病態が悪化する恐れのある労働環境を変更するよう指導する場合があります。
- 夜勤
- 交代制労働
- 精神的ストレスの過大の労働・職場
- 寒暖差の激しい環境での作業
- 長時間労働
- 自動車運転労働など
こういった労働環境に該当する職業についている方は、社会復帰される際は夜勤や早朝業務は外してもらい、短時間から就業開始して少しずつ就業時間を延ばしていくよう指導します。
半休を利用してゆっくり開始することもできますし、最近ではフレックスタイム制を採用している会社・企業も増えてきているため柔軟に働きつつ心リハ時間を活用するようアドバイスすることもあります。
パイロットや電車、バスなどの公共交通機関の運転手は、冠動脈疾患を有している場合もしくは疑いがある場合は、一般的に就業禁忌となります。
スポーツ・日常活動の再開指導
スポーツについて
スポーツ再開に関しては、原則として以下の事項が定められています。
- 持久力運動
- 大筋群を使うリズミカルな動的運動
- 歩行・ジョギング、水泳、サイクリングなどの中強度以下の運動
- 競技性のない娯楽レベルの運動強度
- 等尺性運動は避ける
加えてCPXなどの運動負荷試験を行い運動耐容能を把握して、作業強度の分類の表を用いて復帰可能かどうか主治医などと協議して再開を判断します。
日常生活について
自家用車の運転は軽強度であるため、心血管リスクが中等度以下である場合は、発症後早期(数週目以降)に許可されることが多いです。 心臓外科術後の患者さんに対しては、胸骨切開をしているので骨癒合の状態を確認し、概ね術後2~3ヶ月以降に許可されることが一般的ですが、主治医の判断が必須となります。
さいごに

ここまでご覧いただきありがとうございます。
今回は、作業強度分類や身体活動の評価基準、そして患者さんが社会復帰・スポーツ再開・復職を安全に進めるための指導ポイントを整理しました。
心臓リハビリは、個々の運動耐容能や作業強度を客観的に評価・調整することで、再発予防と生活の質向上を両立させる支援となります。 特に理学療法士・心リハ指導士の皆さまには、METs・CPXのデータ・職場環境把握を通じて、患者さんが「動ける」「働ける」「再び参加できる」状態をともに築いていっていただきたいと思います。
患者さんが安心して活動を再開できるよう、今後も多職種連携を基盤に質の高い社会復帰支援を継続してまいりましょう。
参考文献
- 「-指導士資格認定試験準拠- 心臓リハビリテーション必携」増補改訂版, p352-355, 2022.
- 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン, 2021.



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