
後編では、急性心筋梗塞のガイドラインに基づいた運動処方や、リスク管理、ステージアップ判定について解説します。
はじめに
前回はAMIの病態について解説しました。今回は、いよいよ臨床現場で最も悩む「具体的な運動メニュー(運動処方)」と「リスク管理」についてです。 ガイドラインに基づいた「FITT原則」と「中止基準」をマスターしましょう!
👉 前回の記事:【前編】急性心筋梗塞のリハビリ完全ガイド|病態・合併症・ステージ分類を心リハ指導士が解説
今回は、主に「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」および、「急性・慢性冠動脈疾患の診療ガイドラインを実臨床で使いこなすための一冊」より急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)を参考に作成しました。
運動処方の基本「FITT」
運動療法は、闇雲に行うのではなく、「FITT」を作って行います。
持久力トレーニング

強度においてCPXを実施している患者には、AT-1分前のワット数を指標することもあるかと思いますが、ガイドライン上では、心拍数またはRPEを指標すべきとされていますね。実臨床でも、CPXを実施していない場合は、心肺予備能から推定したHRやKarvonen法によるtarget HRを指標し、CPXを実施している場合は、AT-1分前のワット数も参考にしますが最終的にはATHRで負荷量を調整することが多いです。
レジスタンストレーニング

レジスタンストレーニングの運動の種類に関しては、ウエイトマシンやダンベルを使用できない高齢者の場合は、ゴムチューブを使用することで比較的安全に行うことができます。頻度は毎日行わず、日を空けて行うことが望ましいとされています。
ステージアップの判定基準(進行の目安)
心リハの強度や進行のステップアップには、【急性心筋梗塞患者に対する心臓リハビリテーションのステージアップの判定基準】をもとに調整します。
「もっと負荷を上げてもいい?」と迷ったら、以下の基準を確認します。これらを全て満たせば、次のステップへ進めます。
| 【急性心筋梗塞患者に対する心臓リハビリテーションのステージアップの判定基準】 |
|---|
| 1.胸痛、呼吸困難、動悸などの自覚症状が出現しないこと 2.心拍数≧120bpmにならないこと、または≧40bpm増加しないこと 3.危険な不整脈が出現しないこと 4.心電図上1mm以上の虚血性ST低下、または著明なST上昇がないこと 5.室内トイレ使用時までは収縮期血圧≧20mmHg、≦20mmHgとならないこと(ただし2週間以上経過した場合は血圧に関する基準は設けない) |
判定基準に該当する場合は、負荷強度が強く運動耐容能が追い付いていないことを意味しますので、負荷強度を落とすことも検討します。該当しない場合は、主治医と相談して早期に次の段階に移行する場合もあります。
絶対に知っておくべき「中止・中断基準」
運動中に以下のサインが出たら、直ちに中止しドクターコールが必要です。

運動療法に関しては、【運動療法のリスク分類】がありますので、クラスB・Cに該当する患者は適応となります。運動療法を行い場合は、主治医と相談のもと安全性が担保される方法を用いて個別的にプログラムを選択して実施する必要があります。
合併症・リスク管理に対しての対応

通常、心室性期外収縮(PAC)や心房性期外収縮(PVC)が散発性にみられる場合は経過観察で良いですが、増加する場合は心室頻拍(VT)や心房細動(Af)に移行する恐れがあるため運動療法の中断・休憩を検討すべきです。運動開始前から新規の心室頻拍(VT)や心房細動(Af)がみられる場合は、運動療法は実施すべきでないとされています。
また運動療法中に心室頻拍、MobizⅡ型以上の房室ブロック、心房粗動(AF)、心房細動が新たに生じた場合は、運動療法を中断する必要があります。そして心室細動(VF)、心停止(Asystole)、無脈性電気活動(PEA)がみられた場合は直ちに救命活動を開始することが重要です。
エビデンス
AMI後の心リハ効果
「なぜ、きつい思いをしてまで運動するのか?」 その答えは、運動療法が薬と同じくらい、あるいはそれ以上に「予後(寿命)と生活の質」を改善するからです。
多くの臨床研究において、以下の効果が実証されています。
| 【運動療法の3大効果】 |
|---|
| 1.運動耐容能の改善(体力がつく) 2.QOL(生活の質)の向上 3.死亡率と罹病率の低下 |
PCI施行後の心リハ効果
特にPCI(カテーテル治療)を受けた患者さんにおいては、以下のデータが示されています。
- 再入院の減少:6~12ヶ月という短期間でも、全原因入院および心血管イベントによる再入院を大幅に減らします。
- イベント回避:ステントの「再狭窄率」自体は変わりませんが、心不全や新たな梗塞などの「心血管イベント発生率」は著しく低下します。
つまり、心リハは「再発を防ぎ、病院に戻らなくて済む体を作る」ための最強の治療法と言えます。
さいごに

ここまでご覧いただきありがとうございます。
前後編にわたり、急性心筋梗塞のリハビリについて解説しました。
私たちが担うべきは「単に歩かせること」ではありません。「FITT」で適切な負荷をかけ、「中止基準」で命を守り、患者さんが安心して社会に戻れるようサポートすることです。
このアルゴリズムが、皆さんの明日の臨床のお守りになれば幸いです。
👉 前回の記事:【前編】急性心筋梗塞のリハビリ完全ガイド|病態・合併症・ステージ分類を心リハ指導士が解説
参考文献
- 急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版), pp11-14, 17-18, 67, 75-79, 2018.
- 「-指導士資格認定試験準拠- 心臓リハビリテーション必携」増補改訂版, pp87-90, 267-273, 2022.
- Ying Xing et al.:The Beneficial Role of Exercise Training for Myocardial Infarction Treatment in Elderly, 2020.
- R Belardinelli et al. :Exercise Training Intervention After Coronary Angioplasty: The ETICA Trial, 2001.
- R Belardinelli et al.:Effects of moderate exercise training on thallium uptake and contractile response to low-dose dobutamine of dysfunctional myocardium in patients with ischemic cardiomyopathy, 1998.
- 2021年改訂版心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン, 2021.

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