「弁膜症の術後患者さんを担当することになったけど、弁形成術と弁置換術って何が違うの?」「機械弁と生体弁で気をつけることは変わる?」 本記事では、弁膜症外科手術(開胸術)の基礎知識から、術式の違い、術後に知っておくべき合併症まで、リハビリを安全に進めるための土台を心リハ指導士がわかりやすく解説します。

今度、弁膜症の手術を受けた患者さんを担当することになったんだけど、カルテに「MVP」とか「AVR・機械弁」とか書いてあって、正直よくわからなくて…。
TAVIとはまた違うんだよね?

いいところに気づいたね!TAVIはカテーテル治療だけど、今回のは開胸して行う外科手術だから、術後管理のポイントも変わってくるよ。
まずは術式や人工弁の違いを理解しておくと、リハビリで気をつけるべきことが見えてくるよ。今回は【前編】として、弁膜症外科術後の基礎知識を整理していくね!

弁膜症の手術の基礎知識の解説よろしくお願いします!
- 弁形成術と弁置換術の違いとリハビリへの影響
- 機械弁と生体弁の特徴(抗凝固療法の有無)
- 胸骨正中切開+人工心肺という侵襲の大きさ
- 術後に知っておくべき合併症(不整脈・胸骨関連など)
はじめに
弁膜症に対する外科手術は、TAVIのようなカテーテル治療とは異なり、多くが胸骨正中切開・人工心肺を用いた侵襲の大きい手術です。そのため、術後リハビリを安全に進めるには、術式や人工弁の種類、そこから生じる合併症を正しく理解しておく必要があります。
今回は【前編】として、弁膜症外科手術の基礎知識と術後合併症を整理します。具体的な離床基準・運動処方・胸骨保護については【後編】で解説します。
👉 低侵襲なTAVIについてはこちら:【前編】TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)とは?大動脈弁狭窄症の病態・適応・SAVRとの違いを心リハ指導士が解説

※主に『2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン』『2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン』等を参考に作成しています。
弁膜症の外科手術とは?
心臓には4つの弁(大動脈弁・僧帽弁・三尖弁・肺動脈弁)があり、これらが狭くなる「狭窄症」や、閉じきらず血液が逆流する「閉鎖不全症(逆流症)」を総称して弁膜症と呼びます。
薬物療法で症状のコントロールが難しい場合や、心機能の低下が懸念される場合には、外科手術が検討されます。外科手術は大きく「弁形成術」と「弁置換術」の2つに分けられます。
弁形成術と弁置換術の違い
| 項目 | 弁形成術(弁形成・弁修復) | 弁置換術(人工弁への置換) |
|---|---|---|
| 内容 | 自己弁を温存して修復する | 弁を人工弁に取り換える |
| 主な対象 | 僧帽弁閉鎖不全症など | 大動脈弁狭窄症、修復困難な弁など |
| 抗凝固療法 | 原則、長期の抗凝固は不要なことが多い | 人工弁の種類により必要(後述) |
| 略語の例 | MVP(僧帽弁形成術) | AVR(大動脈弁置換術)、MVR(僧帽弁置換術) |
カルテに書かれた略語を見れば、どの弁にどんな手術を行ったのかが読み取れます。まずはこの略語に慣れることが第一歩です。
- 外科手術は「弁形成術」と「弁置換術」に大別される
- 形成術は自己弁を温存、置換術は人工弁に取り換える
- MVP・AVR・MVRなどの略語をカルテで確認する
機械弁と生体弁の違い
弁置換術で用いる人工弁には、大きく「機械弁」と「生体弁」の2種類があります。リハビリの場面では、この違いによって抗凝固療法(ワルファリンなど)の有無が変わる点が特に重要です。
| 項目 | 機械弁 | 生体弁 |
|---|---|---|
| 耐久性 | 高い(長期間もつ) | 機械弁より劣る(経年劣化あり) |
| 抗凝固療法 | 生涯にわたり必要 | 術後一定期間に限られることが多い |
| 主な対象 | 比較的若年の患者 | 高齢者、抗凝固療法を避けたい患者 |
機械弁の患者さんは生涯にわたって抗凝固療法が必要になるため、転倒・打撲による出血リスクに特に注意が必要です。リハビリ中の転倒予防や、退院後の生活指導でもこの点が重要になります。
- 人工弁は機械弁(高耐久・生涯抗凝固)と生体弁(抗凝固は一定期間)に分かれる
- 機械弁の患者は出血リスクへの配慮(転倒予防)が重要
手術のアプローチ(胸骨正中切開と人工心肺)
弁膜症の外科手術の多くは、胸の中央を縦に切開する「胸骨正中切開」で行われ、手術中は心臓を一時的に停止させて「人工心肺」で全身の血流を維持します。
このアプローチはCABG(冠動脈バイパス術)とも共通しており、術後リハビリでは胸骨の癒合(つながり)を保護する視点が欠かせません。切開した胸骨がしっかり癒合するまでは、上肢や体幹に過度な負荷をかけないよう配慮する必要があります。詳しくは【後編】で「胸骨保護」として解説します。
👉 胸骨正中切開・人工心肺の詳細はCABG記事もあわせてご覧ください:【前編】CABGのリハビリ基礎|オンポンプ・オフポンプの違いと術後合併症

術後に起こりうる合併症
弁膜症外科術後には、リハビリを進める上で注意すべき合併症がいくつかあります。
CABGと同様の術後合併症もありますのでよかったら参考にしてみてください。
👉 【前編】CABGのリハビリ基礎|オンポンプ・オフポンプの違いと術後合併症

① 術後心房細動(POAF)
心臓手術後は心房細動が高頻度で出現します。特に僧帽弁手術後に多くみられ、血行動態や自覚症状に影響するため、心電図モニターでの確認が欠かせません。心房細動については以下の記事も参考にしてください。
▼ 【前編】心房細動の心臓リハガイド|病態・心電図・合併症をわかりやすく解説

② 房室ブロック・徐脈性不整脈
弁の周囲には刺激伝導系が走行しているため、手術操作により房室ブロックが生じることがあります。程度によっては一時的、あるいは永久的なペースメーカーが必要になる場合もあります。
③ 胸骨・創部関連の合併症
胸骨正中切開後は、胸骨の不安定性(動揺)や創部感染(縦隔炎など)のリスクがあります。離床時には創部の状態や胸骨の安定性を確認することが重要です。
④ 心不全・低心拍出
術前からの心機能低下や手術侵襲により、術後に心不全や低心拍出状態を呈することがあります。自覚症状やバイタルサインの変化に注意が必要です。
- 術後心房細動(POAF)は高頻度。心電図モニターで確認
- 房室ブロックではペースメーカーが必要になることも
- 離床時は胸骨の安定性・創部の状態を必ずチェック
さいごに

ここまでご覧いただきありがとうございます。
今回は、弁膜症外科手術の基礎知識と術後合併症について解説しました。
「どの弁に、どの術式を行い、人工弁は機械弁か生体弁か」——ここをカルテで確認するだけで、術後に想定すべきリスクや生活指導のポイントが見えてきます。
次回は【後編】として、弁膜症外科術後の『早期離床基準・運動処方(FITT)・胸骨保護・退院指導』について実践的に解説します!
👉 次回の記事はこちら:
急性期病院に勤務する現役理学療法士(臨床経験6年)。心臓リハビリテーション指導士の資格を活かし、若手セラピストが「明日からすぐ使える」実践的な知識を分かりやすく発信中!データ分析や医療AIにも関心があります。
CPXや循環器リハビリ、医療×AIに関する情報など、明日からの臨床の疑問を解決するヒントを日々ポストしています。
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参考文献
- 日本循環器学会/日本胸部外科学会. 2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン.
- 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会.2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン. https://www.jacr.jp/cms/wp-content/uploads/2015/04/JCS2021_Makita2.pdf.
※本記事の数値・基準は記事公開時点の情報です。実際の臨床判断にあたっては、最新のガイドラインおよび主治医・施設の方針を必ずご確認ください。

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