弁膜症の外科手術後、「いつから離床していいのか」「胸骨保護ってどこまで制限すればいいのか」「運動強度はどう決める?」と悩む療法士は少なくありません。 本記事では、早期離床の基準・胸骨保護(sternal precautions)・運動処方(FITT)・退院指導まで、現場ですぐ使える知識を心リハ指導士がわかりやすく解説します。

前回、弁膜症手術の基礎知識を教えてもらったから、術式や人工弁の違いはバッチリだよ!
でも実際にリハビリを始めると、「胸骨保護でどこまで腕を動かしていいのか」がいつも不安になるんだよね…。

そこは多くの療法士が迷うポイントだね!胸骨保護は「厳しすぎても緩すぎてもいけない」から、考え方を整理しておくことが大切だよ。
今回は【後編】として、離床基準・胸骨保護・運動処方・退院指導まで、実践的に解説していくね!

離床基準や運動処方までわかるのは助かる!よろしくお願いします!
- 離床は「創部・不整脈・血行動態」を確認して段階的に進める
- 胸骨保護は約6〜8週間、過度な負荷を避ける
- 運動処方はCPX評価+心不全に準じたFITTで設定
- 機械弁は抗凝固療法に伴う出血・転倒リスクに配慮
はじめに
前回解説しました弁膜症外科手術の基礎知識を前提に、今回は術後リハビリの離床基準・胸骨保護・運動処方・退院指導まで解説しようと思います。
👉 前回の記事はこちら:【前編】弁膜症の外科手術とは?弁形成術・弁置換術・機械弁と生体弁の違いを心リハ指導士が解説

※主に『2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン』等を参考に作成しています。
早期離床のタイミングと基準
弁膜症外科術後のリハビリは、他の開心術と同様、早期からの段階的な離床が基本となります。ICU・術後早期から、全身状態を確認しながら座位・立位・歩行へと進めていきます。
離床を進める際は、以下の3点を確認すると整理しやすくなります。
- 創部・胸骨の状態(出血・感染徴候の有無、胸骨の動揺・疼痛)
- 不整脈のコントロール状況(術後心房細動・房室ブロックの有無、心電図モニターの確認)
- 血行動態・自覚症状(血圧・心拍数の安定、息切れ・めまいの有無)
これらは施設ごとに定められた離床プロトコル(ステップアップ基準)に沿って進めるのが一般的です。各段階でバイタルサインや自覚症状を確認し、問題がなければ次の段階へ進みます。
- 術後は段階的な離床(ステップアップ)が基本
- 各段階で「創部・不整脈・血行動態」を確認する
- 施設の離床プロトコルに沿って進める
胸骨保護(sternal precautions)
胸骨正中切開で切開された胸骨は、ワイヤーなどで固定された後、時間をかけて癒合していきます。この癒合が完成するまでの間、胸骨に過度な負荷がかかると、胸骨の動揺や離開、創部トラブルにつながる可能性があります。これを防ぐための配慮が「胸骨保護(sternal precautions)」です。
一般に、胸骨の癒合には術後およそ6〜8週間を要するとされ、この期間は特に注意が必要です。
胸骨保護で避けたい動作の例
- 重い物を持ち上げる動作(目安として概ね数kg以上の物を持たない。施設により基準は異なる)
- 両上肢を強く使って身体を押し上げる/引き上げる動作(ベッドや椅子から立ち上がる際に手すりを強く押し込むなど)
- 過度な体幹の回旋・伸展や、胸を大きく開くような動作
- 強くいきむ動作(排便時の努責、強い咳など。咳の際は枕やクッションを胸に当てて創部を保護する)
一方で、近年は過度に厳格な制限がかえって日常生活動作(ADL)の回復を妨げるという指摘もあり、「痛みのない範囲での日常的な上肢使用は許容する」という考え方(modified sternal precautions)も広がりつつあります。実際の制限内容は施設・術者の方針によって異なるため、必ず主治医・外科医の指示を確認することが前提です。
胸骨保護は「厳しすぎるとADL回復を妨げ、緩すぎると胸骨トラブルを招く」という難しさがあります。数値だけを一律に当てはめるのではなく、患者さんの疼痛・胸骨の安定性・施設の方針を総合して判断することが大切です。
- 胸骨癒合には術後約6〜8週間かかり、この間は負荷に注意
- 重量物・両上肢での押し引き・強いいきみを避ける
- 近年は過度な制限を見直す流れもあり、施設・術者の方針の確認が必須
運動処方(FITT)
胸骨保護に配慮しつつ、全身状態が安定してきたら有酸素運動を中心とした運動療法を進めます。運動処方は、CPXによる評価を実施し、心不全患者における運動療法に準じて行うのが基本です。
| 項目 | 設定の考え方 |
|---|---|
| F(Frequency:頻度) | 週3〜5回を目安に、 心不全に準じた頻度で設定 |
| I(Intensity:強度) | CPX:AT(嫌気性代謝閾値)レベル 心拍応答が得られない場合:Borg指数(11〜13)を優先 |
| T(Time:時間) | 1回5〜10分程度から開始し、 徐々に20〜30分程度まで延長する |
| T(Type:種類) | 有酸素運動(歩行・エルゴメーターなど)が中心 レジスタンストレーニングは胸骨保護期間を考慮して導入 |
特に上肢のレジスタンストレーニングは、胸骨に負荷がかかりやすいため、胸骨保護期間中は慎重に判断します。まずは下肢・歩行を中心とした有酸素運動から開始するのが安全です。
術後に心房細動や房室ブロックを合併している場合は、それぞれの病態に応じた運動強度の管理が必要です。以下の記事も参考にしてください。
▼ 【後編】心不全リハビリの実践マニュアル|運動療法の禁忌・中止基準からFITT・食事指導まで
- 運動処方は「心不全に準じたFITT」が基本
- まずは下肢・歩行中心の有酸素運動から開始
- 上肢レジスタンスは胸骨保護期間を考慮して慎重に導入
退院指導と生活上の注意点
弁膜症外科術後の退院指導では、胸骨保護に加えて、人工弁の種類に応じた生活管理が重要になります。
機械弁の患者さんへの指導
機械弁の患者さんは生涯にわたり抗凝固療法(ワルファリンなど)が必要です。そのため、以下の点に配慮した指導が求められます。
- 出血リスクへの注意(転倒・打撲・けがを避ける、自宅環境の調整)
- 服薬アドヒアランス(抗凝固薬の飲み忘れ防止、定期的な採血の重要性)
- 食事との相互作用(ワルファリン使用時のビタミンK摂取など、栄養士との連携)
共通の退院指導ポイント
- 胸骨保護期間中の生活動作(重量物・車の運転再開時期などは主治医に確認)
- 心不全症状の再燃サイン(体重増加・息切れ・浮腫のセルフチェック)
- 創部・感染管理(発赤・腫脹・発熱などの異常時の受診)
- 外来心リハへの参加(運動耐容能の改善と再入院予防)
社会復帰・復職の考え方については、以下の記事もあわせてご覧ください。
▼ 【徹底解説】心リハ患者の社会復帰支援|スポーツ・復職の許容基準と指導の実際
- 機械弁は生涯の抗凝固療法に伴う出血・服薬・食事の指導が重要
- 共通して胸骨保護・心不全サイン・創部管理・外来心リハを指導
よくある質問(FAQ)
Q1. 胸骨保護はどのくらいの期間必要ですか?
A. 胸骨の癒合には術後およそ6〜8週間かかるとされ、この期間は重量物の挙上や両上肢での強い押し引きなどを避けるのが一般的です。ただし制限内容は施設・術者によって異なるため、必ず主治医の指示を確認してください。
Q2. 上肢の運動やレジスタンストレーニングはいつから始められますか?
A. 胸骨に負荷のかかる上肢レジスタンストレーニングは、胸骨保護期間を考慮して慎重に導入します。まずは下肢・歩行中心の有酸素運動から開始し、胸骨の癒合状況と施設の方針に応じて段階的に進めるのが安全です。
Q3. 機械弁と生体弁で、リハビリ上の注意点は変わりますか?
A. 運動療法そのものの進め方に大きな差はありませんが、機械弁の患者さんは生涯にわたり抗凝固療法が必要なため、転倒・打撲による出血リスクにより一層の配慮が求められます。
さいごに

ここまでご覧いただきありがとうございます。
今回は、弁膜症外科術後のリハビリテーションについて、離床基準・胸骨保護・運動処方・退院指導まで解説しました。
要点をまとめると、
- 離床は「創部・不整脈・血行動態」を確認しながら段階的に進める
- 胸骨保護は術後約6〜8週間を目安に、重量物挙上や両上肢の強い押し引きを避ける
- 運動処方は心不全に準じたFITTを基本とし、上肢レジスタンスは胸骨保護期間を考慮する
- 機械弁の患者は抗凝固療法に伴う出血・転倒リスクへの配慮が重要
弁膜症外科術後のリハビリは、「胸骨保護と早期回復のバランス」をどうとるかがカギになります。今日学んだ知識が、明日の心臓リハビリテーションに活かせれば幸いです。
急性期病院に勤務する現役理学療法士(臨床経験6年)。心臓リハビリテーション指導士の資格を活かし、若手セラピストが「明日からすぐ使える」実践的な知識を分かりやすく発信中!データ分析や医療AIにも関心があります。
CPXや循環器リハビリ、医療×AIに関する情報など、明日からの臨床の疑問を解決するヒントを日々ポストしています。
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参考文献
- 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会.2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン. https://www.jacr.jp/cms/wp-content/uploads/2015/04/JCS2021_Makita2.pdf.
- 日本循環器学会/日本胸部外科学会. 2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン.
※本記事の数値・基準(胸骨保護期間や制限内容など)は記事公開時点の一般的な目安です。実際の臨床判断にあたっては、最新のガイドラインおよび主治医・施設の方針を必ずご確認ください。

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